愛媛といえば、みかん!そう思う方は多いかもしれません。
そんな愛媛で、意外にも、サツマイモをたくさん切るためのセンガンギリ(千貫切)という道具がまとまってのこっています。

1貫は3.75kgという重さの単位ですから、「千貫」切という名前に「たくさんイモを切るぞー!」という意気込みが感じられます。

千貫切(佐田岬半島ミュージアム所蔵、以下同)

おおまかなカタチは、上部にイモを載せる平らな台、その下に刃のついた円盤が付いています。
円盤はハンドルでくるくる回せるようになっていて、上から生のサツマイモを投入すると、円盤の刃で切られてたくさんのイモのスライスができるのです。

輪切り状態のイモスライスは天日でカラカラに干して切干し芋となり、カマスなどに入れて出荷されました。
自宅でも食用に使っていたようです。

愛媛県の西の端、日本一細長い半島、佐田さだみさき半島にある佐田岬半島ミュージアムでは、現在、14台のセンガンギリを所蔵しています。
14台も!と思うかもしれませんが、形もさまざまで、個々に違いがあってどれも愛おしいものです。

見どころをいくつか挙げていきましょう。

まずは気になる円盤。

どうも刃は付け替え可能で、2枚刃と3枚刃があるようです。
次々と回転してくる刃、イモにしてみればたまったもんじゃありません。

しかし、4枚刃、5枚刃はありません。
刃が増え過ぎると逆に切る方も力の負担が大きいのかもしれません。

2枚刃(左)と3枚刃(右)

それからハンドル。これには3タイプありました。

ひとつは円盤に直接ハンドルの取っ手が付いたもの(A)。
これはイモを切る役と、切ったイモをさばく役を一人でやったと思われます。
手元が忙しいのに刃物が近くてこりゃ危ない。

2つめは円盤の回転軸を後ろに伸ばして円盤の反対側にハンドルが付いたもの(B)。
これならハンドルは安全に回せますが、イモがどれだけ切れたかハンドル側から見えません。

ハンドルの3つのタイプ。左からA・B・C

3つめは回転運動を直角に伝えるかさ歯車でハンドルが本体横に付いたもの(C)。供給するイモと、切られたイモの両方を見ながらハンドルが回せます。
「これが出てきた時、画期的やのぉ思った」と地元の方のお話も聞けました。

あとは本体のフレームです。

左からX型、IX型、K型のフレーム

木製の躯体は横から見ると「Ⅹ」「Ⅸ」「K」の文字の形に見えますね。

いずれも右上がりの斜線部に円盤がくるのですが、ぐるんぐるん回るハンドルの振動にも耐えられるように、柱などが補強されていった結果でしょうか。

館蔵資料を調べたところ、本体の印字などからセンガンギリの製作会社が判明しているのは4社。

「千貫切」はどうやら「トモヱ農機工作所」さんの商品名で、「愛媛農工株式会社」「大山農機製作所」などは「日の本式いも切機」。

使用時期はおそらく戦前~昭和30年代がピークと思われます。
いずれも愛媛県宇和島市のメーカーでした。

本体の刻印。上から「トモエ農機工作所」「大山農機製作所」「愛媛農工株式会社」

そして、なんといっても興味深いのは、使った人々のカスタマイズです。

多くのイモを載せるためにブリキや木っ端でかさ上げした囲い。
切られたイモが飛び散らないためのベニア板。
座ったままの作業姿勢を緩和するため、ありあわせの材木を継いで高さを上げたもの。

いずれも実際に使っていた人が、どう使い勝手よくイモを切ろうかと創意工夫し、補修や改良をした痕跡です。

回転軸に絡みついた植物片やこびりついた泥・でんぷん汚れも、将来の畑の環境復元やイモの品種同定に役立つ可能性もあるでしょう。

本体にこびりついた泥やでんぷん汚れ

どれひとつ同じものはありません。
そこにあるのはイモを切っていた時代のリアルです。

最後に実際にセンガンギリでイモを切ってみた時の動画をご覧ください。

当館のFBページ「佐田岬デジタル博物館(仮)」にアップした際、なぜか世界中に拡散されて、再生回数7万回を突破した話題の動画です!

包丁やカンナでイモを切っていた頃に比べたら飛躍的に生産量を高めたであろうセンガンギリ。
イモで育まれた地域のアイデンティティが世界の人々の共感を生んだのかもしれません。

執筆:高嶋賢二(佐田岬半島ミュージアム)
公開:2026年8月28日