「草履」の定番素材と言えば、藁です。
しかし、稲作が盛んでなかった地域では、藁以外のさまざまな素材が使われました。
そのひとつが、ミョウガの葉です。
ミョウガと言えば、日本では食べ物として広く知られています。
いつも食べているあの部分は、実は花のツボミ。
薬味にしたり酢漬けにしたり、地域によっては味噌汁に入れるところもあります。
独特の香味と歯ごたえ、さっぱりとした後味、そして鮮やかな色が、夏の食卓のよいアクセントになります。

さて、岐阜県揖斐川町坂内では、このミョウガの葉で草履を編みました。
この草履は冬に、しかも室内で履くものなのだそうです。昔は板間なので、この柔らかい草履ならば板に傷がつきません。
それにミョウガの茎が空気の層を持っているので、厚みも弾力もあって足も冷えず、とても重宝されたといいます。

かかと部分が高く作ってあり、心地よくフィットしそうです!
こうしてミョウガを編み材や結束材として使う例は、各地に点々と見られます。
例えばこれは岩手県岩泉町で荷物を背負うために使われたショイダイ(背負い台)。
一面に編みこまれたミョウガの葉がよいクッションになりそうです。


(岩泉町歴史民俗資料館蔵)
静岡市井川では縄に綯わずに、葉っぱをそのまま結束材に使いました。
9月頃になって枯れた葉っぱを刈って、軒先で干しておき、収穫した野菜を束ねたりするのに使ったと言います。
化学繊維のヒモでも何でも入手しやすい時代になった今では想像がつきませんが、かつては身の周りのものを何でも工夫して使っていました。
みなさんも先人たちの知恵と工夫の結晶である「定番以外の素材」をぜひ探してみてください。
※坂内のミョウガ草履については、川尻秀樹氏に情報提供いただきました。記して御礼申し上げます。
執筆:今石みぎわ(東京文化財研究所)
公開:2025年10月23日
