フキ。春先に出る花芽はフキノトウとして親しまれており、葉柄ようへいを佃煮にしたり煮たりして食べる地域も広くあります。
また蕗の葉は大きく、以前はトイレットペーパーとしての役割を持っていました。

蕗だけではなく、シナノキやトチノキ、ホオノキ、クワなどの大きな葉も、しりぬぐいとして利用されていました。

ここでは、そんな話を紹介します。

蕗の葉

尻拭いに使う植物の様態は、大きく分けて、葉型と枝型の2つがあります。

葉型では、蕗やトチノキなど、葉が大きい植物を利用していました。
枝型では、イタドリの茎や竹、ウルシなどがあり、細かく薄く割った枝を「チュウギ」などと称して使用していました。

高下駄を履いて排便する子ども。手にいわゆるクソベラが握られている。(平安末~鎌倉初期「餓鬼草紙」『日本絵巻大成』国会図書館デジタルライブラリより転載

山形県温海あつみ鼠ヶ関ねずがせき(現鶴岡市)では、尻拭いとしてトチノキの葉を用いていました 。
斉藤たま『落とし紙以前』(2005)には、鼠ヶ関の事例について次のようにあります。

「栃の葉は大抵柄から離れてばらばらになって落ぢてる。それば〔かます〕さ詰めて来てそのまましまっておく。しけったの詰めてあるので冬は冷たいわのー、ひやひやして。濡れたとこ凍みてくるんだはげ。沢の両側に栃の木あり、ずっと沢のぼって拾う。栃の実は人の山拾わんねえが、葉はどっこのでも拾っていい。一年中使った。栃の葉は乾いてもからからすね〔しない〕。終わっては下さ落す。夏は蕗葉もつかった。」

ここから、湿ったトチの葉を使用していることが分かり、また、トチの葉は乾いても使用できることから用いられてきたのではないかと考えることができます。

トチノキの葉(山形県/岸本誠司氏撮影)

一方で、トチの葉は葉包み食にも使われていました。

埼玉県秩父地方では、生の糯米もちごめあわ、小豆を混ぜたものをトチの葉で包み、稲藁で結んで蒸した「ツトッコ」を食べていたようです(服部 2019)
トチの葉は尻拭いに使われただけでなく、葉包み食としても人々の生活に関係していたことが(うかが)えます。

尻拭いと食生活どちらにも使われる植物として、イタドリもあげられます。
福島県下郷町枝松では、タケスカンポ(イタドリ)を尻拭いに用いるだけではなく、イタドリの茎ばかりが伸びだす春頃に、子どもがこれを食べていました(斉藤 2005)

イタドリを尻拭きにも食にも用いる事例は福島県に限らず、秋田県や岩手県にもあります。
たとえば東京文化財研究所の「斎藤たま 民俗調査カード集成」に所蔵されている斉藤たま氏の調査カードによれば、岩手県大船渡市三陸町綾里りょうりでは、イタドリの枝を尻拭きにするだけでなく、葉も蕗や(わらび)を塩漬けにするときに使ったとあり、イタドリが尻拭きにも食生活にも使われていたことがわかります。

イタドリの葉

わらもまた、藁布団や草履、縄などに加工される以外に、尻拭いにも使用されていました。
東北地方では、藁をどこも同じような 形状にして尻拭いに使用しました。

東北地方では全県で同じような形をした藁の尻拭きを使う
(斉藤たま 2005『落とし紙以前』論創社 より転載)

前述の『落とし紙以前』には、福島県塙町はなわまち田代の事例があります。その地域では、便所の入り口に藁が置いてあり、そこから2~3本取った後、10㎝ぐらいに折りたたみ、横に巻いた後末をねじ込み、穂先が飛びだしている方を持ち、すべっこい方で拭ったとあります。

また、「トイレのフォークロアー便所神と便所紙」(大楽 2005)によると、岐阜県輪中地帯では、尻拭きに紙を使用すると紙が腐りきらず、肥料にならないことから、スグタと呼ばれる藁を使用し、使用後は便所に捨てて下肥しもごえにしたとあります。藁が下肥の熟成発酵を促進させるという点に加え、下肥の運搬の際に、肥桶から下肥がこぼれることを防ぐという利点もあったことから、藁が使用されたといいます。
このことから、藁の尻拭きが、下肥の利用に際しても大きな役割を担っていたことが分かります。

そして下肥が麦や蔬菜(そさい)類などの植物を育て、それがまた食べ物として、人々の暮らしの中に取り込まれていったのです。

岩手県奥州市で尻拭きに用いたシリノゲ(岩手県立博物館所蔵) 昭和40年代まで使用された

ここまで、葉や枝での尻拭いについて見てきましたが、筆者が調査した千葉県柏市初富では、昭和37年(1962)ごろまで尻拭いには新聞紙を使用していたと言います。
新聞紙はそのまま拭くと痛いため、クシャクシャに揉んで拭いていたようです。

このように、尻拭いとして、葉や枝の次に雑誌や新聞紙、チリ紙を使用するようになり、そして、現在のトイレットペーパーへと変化していきます。
素材は違いますが、求められる機能は同じであるかと考えます。
一昔前の尻拭いに使用する物は、人々の食生活などあらゆる場面で用いられており、現在のトイレットペーパーよりも、より身近な道具であったといえるのではないでしょうか。

みなさんも困ったときは、あらゆる葉や枝で拭ってみることをおすすめします。

【参考文献】
斉藤たま2005『落とし紙以前』論創社
大楽和正2005「トイレのフォークロアー便所神と便所紙」『「肥しのチカラ」展示図録』)葛飾区郷土と天文の博物館
東京文化財研究所「斎藤たま民俗調査カード集成
服部比呂美2019「粽と柏餅―葉包み食の伝承―」『日本の食文化6 菓子と果物』吉川弘文館

執筆:相浦周毅(國學院大學民俗学研究会)
公開:2026年6月19日