平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災は、震災前の当たり前の暮らしや地域コミュニティの継続に大きな困難をもたらしました。その中で、地域の人々が長い年月をかけて育んできた祭り行事や芸能、手わざや暮らしの知恵など、様々な無形の文化遺産も継承の危機に立たされています。
いっぽう復興の過程においては、そうした無形の文化遺産が人々に生きる活力と誇りを与えること、地域コミュニティの連帯を強めること、地域のアイデンティティを再興するために重要な役割を果たすことなどが再認識されてきました。

そこで、地域の方が今を生きるための心の支えとなるように、また地域文化が次代へと引き継がれていくように、様々な団体が協働して2012年度に「無形文化遺産情報ネットワーク」を立ち上げ、無形文化遺産の復興・継承支援の事業を推進してきました。
無形文化遺産部では情報収集活動を通じて得た情報を共有するツールとして、2013年2月には無形文化遺産の所在と簡単な被災・復興情報を示した「無形文化遺産マップ」を、2016年3月からは関連する写真・映像記録等について検索・閲覧できる「無形文化遺産アーカイブス」を公開してきました。
これらのサイトはシステムの都合上、現在非公開となっておりますが、活動の記録として、ここにサイトの一部を再掲いたします。

【無形文化遺産情報ネットワークの協働団体(結成当時)】
一般社団法人 儀礼文化学会
公益社団法人 全日本郷土芸能協会
独立行政法人国立文化財機構 東京文化財研究所
国立研究開発法人 防災科学技術研究所

無形文化遺産情報ネットワークの活動経緯について

東日本大震災で被災した地域には、文化財指定されていない無形文化遺産が数多くあります。震災後、多くの団体がこれらの文化やその担い手を支援しようと動き出しましたが、まず直面したのは、どこにどのような無形文化遺産があるのかを把握することの困難さでした。

そこで、①どこにどのような無形文化遺産があるのか、その全容を把握すること ②各無形文化遺産がどのように被災し、どのような支援を必要としているのか の2点を知ることを目的に、儀礼文化学会と全日本郷土芸能協会が中心となって被災地域の民俗芸能や祭礼の一覧表を作成しました。そしてこの一覧表を元に、各地の関係する団体や個人に生の情報を寄せてもらい、集まった情報をもとに必要な支援の呼びかけや仲介、情報の発信をおこなってきました。

震災から約2年後の2013年2月、それまで関係者間のみで共有されてきた一覧表を整理し直し、防災科学技術研究所の全面的協力のもと、地図の形で公開することとなりました。行政や民間団体、保存会関係者、研究者、愛好家など、それぞれが持つ情報やネットワークは限られていますが、それらを繋げることで、より広域的で目の細かいネットワークの構築を図ることができると考えたからです。またマップを公開することによって、 被災や復興の現状を広く一般にも知っていただくことや、それによってこれまで支援・応援が行き届かなかった地域についての情報をあらたに寄せていただくことも期待されました(※2022年現在はシステムの都合上、地図は非公開となっています)。

その後、復興の状況が多様化・複雑化・個別化し、単に復興したか否かという尺度で図ることが難しくなってきたこと、支援・受援の動きがひと段落したことを受け、2014年3月末をもって網羅的な情報収集作業は終了いたしました。ただし、震災後に無形文化遺産がどのように復興していったのかを知る際のひとつの記録となると考え、引き続きサイトの公開はおこなうこととしました。

震災後、各無形文化遺産がどのように復興していったのか、その一端を示すことで、無形文化遺産の持つ底力と豊かさを知っていただければと考えています。

出典等について

文化遺産マップの元となる一覧表では、文化遺産の名称や所在地、保存団体名などの基礎的な情報に加え、被災状況(人的被害と施設・道具被害)、支援状況、復興状況などの情報を収集しています。民俗芸能と祭礼・行事の一覧表については既刊の報告書や自治体史等を元に作成しており、現在岩手・宮城・福島の沿岸部だけで民俗芸能が800件以上、祭礼・行事が500件以上登録されています。主要参考文献は以下の通りです。

  • 『北海道・東北地方の民俗芸能』1~3巻
  • (日本の民俗芸能調査報告書集成)いずれも海路書院 2005年
  • 『北海道・東北地方の祭り・行事』2巻 岩手・宮城・福島
  • (都道府県別日本の祭り・行事調査報告書集成)海路書院 2009年
  • 『祭礼行事 岩手県』高橋秀雄・門屋光昭編著 おうふう 1992年
  • 『祭礼行事 宮城県』高橋秀雄編・三崎一夫編著 おうふう 1992年
  • 『祭礼行事 福島県』高橋秀雄・懸田弘訓編著 おうふう 1993年

また、本サイトで公開している「復興状況」は、一覧表で収集した被災状況・支援状況・復興状況に関する情報を元にサイト管理者が総合的に判断したもので、2014年3月時点のものです。元になる情報については各関係者から寄せられた情報に加え、基礎資料として文化庁補助事業(文化遺産を活かした観光振興・地域活性化事業)による下記調査の成果を参照しています。

  • 岩手県:『東日本大震災民俗文化財現況調査報告書 岩手県』Ⅰ・Ⅱ
    東日本大震災民俗文化財現況調査実行委員会 2012年3月・2013年3月
  • 宮城県:『東日本大震災に伴う被災した民俗文化財調査 2011年度報告集』
    東北大学東北アジア研究センター 2012年3月
  • 福島県:『福島県域の無形民俗文化財被災調査 報告』
    民俗芸能学会福島調査団 2012年3月
    福島県教育委員会調査(2012年12月~2013年3月)
ご利用に際して
  •  掲載内容は、情報収集・整理事業を実施していた2014年3月までのものです。また、内容に誤りがある可能性がありますので、掲載情報の利用に際しては、各自の責任でご確認・ご判断ください。
  • 本サイトでは、無形文化遺産のうち、民俗芸能と祭礼・行事の情報を公開しています。