新潟県立歴史博物館所蔵。「新潟県民俗学会旧蔵民具コレクション」の内の1点。山口賢俊情報カード8294・学会民具番号124。1957年頃、新潟県の十日町周辺で山口賢俊と駒形覐が採集し、山口がペンネーム「春川正信」名義で『高志路』174号(1957年3月発行)に報告した。

ノグツの「ノ」は、野辺のべ送りの「野」、つまりノグツ(野沓)は葬式で履くクツという意味です。

雪国では、積雪時に履くワラ製のクツをワラグツなどと呼びました。積雪時の葬列では、死者の家族が「ノグツ」と呼ばれるワラグツを履いて歩きました。

 普通のワラグツと異なるのは、はみ出したワラを切りそろえず、ケバ(ケバケバ)をそのまま残しているところです。
「野道具」(葬式で使う道具)は、完全に作ってはいけないとされており、ノグツも同じ理屈にしたがって、未完成品のまま用いられました。


全国的にあった野辺送りに履くノゾウリ(野草履)は、雪国でも積雪がない時期に履かれました。

果たして雪国ではない地域の人々はノグツを想像したことがあったでしょうか。
新潟に来る前、大阪育ちの私は想像したことがありませんでした。

江戸時代に鈴木牧之が『北越雪譜』の中で嘆いた非積雪地域の人々による無理解は、未だに解消されていません。
ノグツの実物には、その無理解を解消するかもしれない大きなチカラがあります。

執筆:三国信一(新潟県立歴史博物館)
公開:2025年10月6日