
時代劇などでもよく見かける笠。
でもよくよく見ると、地域によっていろいろな素材が使われていることがわかります。
もっともよく知られているのはスゲを使った菅笠ですが、ほかにも竹皮やイグサ、沖縄などではクバを用いた笠も有名です。
樹木から作った材で作る編み笠も各地に点在し、ヒノキやイチイ、また広葉樹のウリハダカエデなどが素材として使われました。
このうち石川県白山市で作られる深瀬笠(ふかぜがさ)は、ヒノキをカンナで薄く削って作った「ヒンナ(ヒゴ)」を編んでつくる「ヒノキ笠」です。
菅笠や竹皮笠の場合は、まず笠骨(竹の骨組み)で円錐形の土台を作り、そこに素材を縫い付けて作ります。一方で、深瀬笠のような編み笠は、土台を使わず、最初から円錐形に編み上げていくという違いがあります。

製作途中の菅笠の内側(富山県高岡市)

特に深瀬の場合は、「カサブタ」と呼ばれる笠型の台を使うことが大きな特徴。
笠の頂点にあたる「ツボ」をまず編み、それをカサブタにかぶせて編み進めることで、同じ規格の笠を量産できるだけでなく、編み目をきつく詰めることが可能となるのです。
カサブタを使って円錐形に編み上げていったら、最後に竹輪をつけて縁を仕上げ、内側にナカザシと呼ばれる補強をつけて完成です。

笠骨を使わず、薄く削ったヒンナを編んで成形することから、深瀬笠はとにかく軽いのが特徴。
また晴天時は木が乾燥・収縮して風通しがよく、雨天時は木が膨張して目が詰み、水が漏らない、何とも合理的な笠なのです。
白山市の周辺地域では、技術の後継者も育ちつつあります。
日本の酷暑に、「いまこそ桧笠の復権!」といきたいところですね。
実演:道上哲夫さん(深瀬桧細工工房)
取材協力:香月久代さん、道上哲夫さん、荒邦裕美さん、スーザン・マリーさん、新田みささん ほか
執筆:今石みぎわ(東京文化財研究所)
公開:2025年7月8日