まるで豚の横顔のような、ちょっと変わったこの唐箕(とうみ)
全国でも愛知県北設楽郡とそれに接する長野県下伊那郡を中心とする地域にだけ見られるそうです。

唐箕は、内蔵された羽根で風を起こし、その風力を利用して穀物を精選する農具。江戸時代に中国から伝わったとされます。

一般的な唐箕は、本体上部についた投入口から穀物を入れ、羽根を回して起こした風で軽いゴミだけを外に飛ばし、重たい実を下に落とす仕組み。
しかし、この唐箕には穀物を入れるための投入口がついていません。つまり、「ただの送風機」。

『愛知県農具調』(北海道大学付属図書館蔵)

ではどうやって選別するか。
ここに挙げた図は、明治13年(1880)の『愛知県農具調 農具器械図』(北海道大学付属図書館蔵)に描かれた「旧型」の唐箕。
これを見ると、口の上に別置した四角い箱から穀物を流し、そこに唐箕から発せられた風を当てて、本体の外で、実とゴミに分けたようです。

明治13年の時点で旧型とされるこの唐箕、その使用は江戸時代に遡るに違いありません。
もしかしたら、私たちがよく目にする唐箕の、ひとつ古い形なのかもしれませんね。

参考文献:神野善治1982「奥三河の旧型唐箕」『民具マンスリー』15巻4号


執筆:今石みぎわ(東京文化財研究所)
公開:2025年7月8日