概要

制作されてから長い時間が経過している文化財は、定期的に適切な保存修復処置を行うことで、後世に伝えていくことができます。美術館・博物館で陳列される美しい作品も、守り伝える伝統と技術があるからこそ、それを鑑賞し、楽しむことができるのです。伝統的な材料と技術で作られている文化財を修復する際は、その材質や状態に合わせて修復に用いる材料も注意深く選定し、適切に使用する必要があります。文化財の修復には、さまざまな材料・道具・技術が用いられています。一方、科学技術を応用してより安全で確実な方法で修復を進めるための研究もおこなわれています。

日本は古代から大陸の強い影響を受けながら文化を育んできましたが、日本絵画の形式としてよく知られる掛軸や屏風といった表装方法も、元来、中国を起源とするものです。日本を含む東洋絵画は、通常、紙や絹に描かれ、これらは絵そのものだけでは、鑑賞することができません。掛軸、巻子、屏風、襖など様々な形に表装されて、絵画の表現も発展してきました。

紙や絹は燃えやすく、損傷を受けやすい脆弱な材料のようにも見えますが、適切な方法で作り、取り扱うと、時代を超え、長期間の保存にも耐えることができます。しかしながら紙と紙、布を接着する糊は経年によりその接着能力が劣化するため、おおよそ100年に一度くらい、定期的に修復をする必要があります。絵など作品が描かれている本紙が損傷を受けている場合は、それ以上損傷や劣化が進まないように対策をして、付着したホコリや汚れなどは安全に除去できる範囲で取り除きます。本紙を支えている紙や下地などを取り替え、適切な強度のある表装で保護することにより、さらに作品としての命を永らえ、後世に伝えていくことができるのです。

ここでは文化財の修復に使われている多くの材料のなかから、宇陀紙と補修紙についてご紹介します。


「宇陀紙の製造」

掛軸の総裏紙という、本紙から見て一番後ろに用いられる紙。奈良県の吉野で作られる宇陀紙は、楮、ノリウツギ(ユキノシタ科アジサイ属の植物)、白土を材料として製造されており、伝統的な掛軸の修復には必要不可欠な材料です。


「補修紙製造」

本紙の表面に虫喰いや損傷などがある場合、その欠損部分を本紙と同じ材質の紙で補修します。そのために本紙の材質を分析し、それと基本的に同質の紙を用意し、修復をおこないます。

日本絵画の修復