| △小林（鐘吉（せうきち））氏（し）、岡野氏（し）も数点（すうてん）の佳作（かさく）がある、特（とく）に小林氏（こばやしゝ）のおだやかに暮（く）れ行（ゆ）く海（うみ）の小幅（せうふく）、又（また）は曇（くも）りの海（うみ）の空（そら）のたゝすまゐ等（とう）、氏（し）が常（つね）に天候（てんこう）の変化（へんくわ）し行（ゆ）く微妙（びめう）の点（てん）を捉（とら）へんと苦心（くしん）し、殆（ほとん）ど成功（せいこう）せんとするものがある岡野氏（をかのし）は其（そ）の色彩（しきさい）に於（おい）て一段（だん）の進歩（しんぽ）がある、両氏及（れうしおよ）び中沢跡見山本（なかざはあとみやまもと）三氏所謂日本名勝写生紀行（しいはゆるにほんめいせうしやせいきかう）の五氏（し）を通（つう）じて、一種重々（しゆおもおも）しき意味（いみ）でなき共通（けうつう）の点（てん）あるを認（みと）める事（こと）が出来（でき）る無論各自（むろんかくじ）が一家（か）の主張（しゆてう）は全（まつた）く別（べつ）であるが、此（こ）の五氏（し）を一列（れつ）に被（おほ）ひかぶせる軽（かる）いふうわりとした趣（おもむき）が見（み）へるのは面白（おもしろ）い現象（げんせう）だ＠△和田氏（し）に出品（しゆつぴん）なく、岡田氏（し）二三点（てん）、甚（はなは）だ物足（ものた）らない、新帰朝（しんきちよう）の湯浅氏（し）、藤島氏共（しとも）に多（おほ）くの出品（しゆつぴん）がある、湯浅氏（ゆあさし）の例（れい）の大幅（たいふく）の模写（もしや）は多謝（たしや）すべく、藤島氏（ふぢしまし）の作物（さくぶつ）は、独逸風（どいつふう）とも云（い）ふべき日本（にほん）に新（あたらし）き手法（しゆはふ）を見（み）せて呉（く）れたと云（い）ひ得（う）る＠△黒田氏（し）の作（さく）は何時見（いつみ）ても嬉（うれ）しい、温（あたゝか）い感（かん）を起（おこ）させるものが必（かなら）ずある、其（そ）の一は裸体（らたい）の女両（をんなれう）三草原（くさはら）にある、大作（たいさく）の構図（かうづ）か知（し）らぬが、緑（みどり）と人体（じんたい）の調和（てうわ）の巧（たくみ）は敬服（けいふく）すべきである、庭園（ていゑん）の雪景（せつけい）に見（み）る眼（め）を驚（おどろ）かすは、云（い）ひ能（あた）はぬ距離（きより）の感（かん）じである、かゝる絵（ゑ）に対（たい）して始（はじ）めて芸術的観念（げいじゆつてきくわんねん）の鋭敏（えいびん）なる真（しん）の大家（たいか）と云（い）ふ感（かん）を禁（きん）じ得（え）ない＠△以上（いぜう）は一瞥（べつ）の所感（しよかん）である、此（か）く多（おほ）くの出品（しゆつぴん）があり乍（なが）ら場内（ぜうない）に、観客（くわんかく）の爲（た）めに休息所（きうそくぢよ）の設（まう）けがなかつたので、目（め）も頭（あたま）も、第（だい）一足（あし）が甚（はなは）だ疲労（ひらう）を覚（おぼ）へた、館（くわん）を出（で）てベンチに倚（よ）ると、翠色（すゐしよく）あざやかに日光温（につくわうあたゝか）く心地（こゝち）が非常（ひぜう）によい、日本画（にほんぐわ）の展覧会（てんらんくわい）に見（み）るが如（ごと）き売（う）らん哉主義（かなしゆぎ）のいやしいものが少（すく）なく、自然（しぜん）に対（たい）して燃（も）ゆるが如（ごと）き胸底（けうてい）の感想（かんさう）を一筆（ぴつ）々々（ぴつ）とカンヴアスに落（おと）し行（ゆ）く様（さま）が偲（しの）ばれる、かゝる真面目（まじめ）の作（さく）と進歩（しんぽ）の跡歴々（あとれきれき）たるとを見（み）て大（おほ）いに頼（たの）もしい感（かん）じを禁（きん）じ得（え）なかつた（完） |
目次 |
戻る 
進む 