白馬会関係新聞記事 第8回白馬会展
| 秋季絵画展覧会巡覧記 （しうきかいぐわてんらんくわいじゆんらんき）（四） 白馬会（続） |
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| | ○生、△生 | 読売新聞 | 1903（明治36）/10/08 | 1頁 | 展評 | | |
| △「和田氏（わだし）の肖像（せうざう）の中（うち）でハ、番号（ばんがう）九十三の眼鏡（めがね）を掛（か）けたのが一番面白（ばんおもしろ）いぢやないか。筆（ふで）が軟（やはら）かで、後（うしろ）へアールヌーボーの唐草（からくさ）を添（そ）えたのも対照（たいせう）して趣味（しゆみ）が深（ふか）くなる。洋美人ハ全体（ぜんたい）ハよいが、衣服（いふく）の色（いろ）が落付（おちつ）かぬと思（おも）ふ。」＠○「黒田氏（くろだし）の菊地大麓ハ流石肖像（さすがせうざう）として場中第（ぢやうちうだい）一であらうが、江間（えま）といふ人（ひと）の老女も顔面（がんめん）の表現（へうげん）が一寸（ちよつと）よく出来（でき）てゐる。」＠△「和田氏（わだし）の作（さく）ハまだ夕なぎといふのがあるが、山（やま）の描法（べうはふ）が和田（わだ）としてハ力（ちから）がない。」＠○「とても飽足（あきた）らぬものゝ、全体（ぜんたい）の出来（でき）を平均（へいきん）すると和田（わだ）が一等（とう）であらう。画題（ぐわだい）の選択（せんたく）にも筆力（ひつりよく）にも何処（どこ）かに才気（さいき）が見（み）えるやうだ。どうせ着想（ちやくそう）とか内容（ないよう）とかで我等（われら）を動（うご）かすやうなものハ、模倣時代（もはうじだい）の、いはゞ明治初年（めいぢしよねん）の洋書翻訳時代位（やうしよほんやくじだいぐらゐ）の程度（ていど）の洋画界（やうぐわかい）に望（のぞ）むのが無理（むり）なんだ。」＠△「さうだ。まだ「何々（なになに）しつゝあり」「事（こと）の其事（そのこと）が」とやつてるので、よいといつても日本人（にほんじん）の洋画（やうぐわ）としてハと頭（あたま）に冠（かぶ）らせなくてハ称辞（しようじ）の捧（さゝ）げられさうなのハないのだ。この模倣時代（もはうじだい）に我（われ）を没（ぼつ）してこつこつ我国美術界（わがくにびじゆつかい）百年（ねん）の後（のち）を慮（おもんはか）つて其（そ）の土台（どだい）を築（きづ）くのハ、其（そ）の真摯着実（しんしちやくじつ）の考誠（かんがへまこと）に感心（かんしん）の至（いた）りだ。」＠○「しかし血（ち）の気（け）のある、殊（こと）に情熱（じやうねつ）のあるべき美術家（びじゆつか）が、只毛唐人（たゞけたうじん）の跡（あと）を追（お）うてよく模倣（もはう）ばかりして平気（へいき）で居（ゐ）られると思（おも）ふ。吾輩（わがはい）ハ文学（ぶんがく）の上（うへ）でも多数（たせう）の翻訳（ほんやく）や梗概（かうがい）ハつまらないと思（おも）ふ。元（もと）より様（やう）に依（よつ）て胡盧（ころ）を画（ゑが）く今日（こんにち）の小説家（せうせつか）ハ今日（こんにち）の日本画家（にほんぐわか）と同（おな）じく二三を除（のぞ）いてハ平凡（へいぼん）な翻訳家外人模倣（ほんやくかぐわいじんもはう）の洋画家（やうぐわか）にも劣（おと）ること数等（すとう）であるが、兎（と）に角真似（かくまね）るといふことハ青年（せいねん）の道徳（だうとく）から論（ろん）ずれバ最（もつと）も歯（よはひ）すべからざるものだ少々間違（せうせうまちが）つたつてよい。自分（じぶん）の信（しん）ずる所（ところ）を発揮（はつき）するのがよいぢやないか。先輩（せんぱい）がこんな色彩（しきさい）を用（もち）ひ、このやうに用（もち）うるからかうしやう。と、人（ひと）にばかり依頼（いらい）して居（ゐ）るのハ、神（かみ）より受（う）けた、全世界（ぜんせかい）よりも尊（たつ）といと基督（きりすと）のいつた独自（どくじ）一己（こ）をゼロにしてしまふのだ。」＠△「だが手段（しゆだん）としてハ模倣（もはう）するのもよいと思（おも）ふ。併（しか）し全体白馬会（ぜんたいはくばくわい）の大先生達（だいせんせいたち）ハ学問（がくもん）も深（ふか）く、抱負（はうふ）の大（おほ）きくつて、傲然（がうぜん）とかまへて居（ゐ）るさうだが、日本（にほん）の絵画（くわいぐわ）に対（たい）してどういふ理想（りそう）を抱（いだ）いてゐるのであらう。まさかミレーとかコローとか吾々日本人（われわれにほんじん）にハ毫（がう）も関係（くわんけい）もない同情（どうじやう）もない人間（にんげん）を此国（このくに）に出（だ）したいといふやうなケチな考（かんが）へでもなからうが。一つ黒田先生（くろだせんせい）に日本（にほん）の絵画（くわいぐわ）の将来（しやうらい）についてのコンクリートの意見（いけん）を伺（うかゞ）ひたいものだ。他（た）の会員諸君（くわいゝんしよくん）ハてんでに勝手（かつて）な事（こと）を書（か）いて居（ゐ）てもよいが、苟（いやしく）も日本洋画家（にほんやうぐわか）の泰斗（たいと）として、幾多（いくた）の師弟（してい）を指導（しだう）してゐる同氏（どうし）ハ前途（ぜんと）の理想（りさう）が火（ひ）を見（み）る如（ごと）く明（あきら）かであるべきで、漠然（ばくぜん）たる舶来的（はくらいてき）の小成（せうせい）に安（やす）んずる絵画観（くわいぐわくわん）でハ恕（じよ）すべからずだ」＠○「洋画家（やうぐわか）の言草（いひぐさ）に一つ癪（しやく）にさはつてならぬ事（こと）がある。洋行（やうかう）しなけれバ、日本（にほん）の洋画（やうぐわ）も分（わか）る筈（はず）ハないといふ。これハ洋行（やうかう）しなけれバ西洋劇（せいやうげき）ハ分（わか）らぬといふと同（おな）じ事（こと）であつて、成程（なるほど）アービングや、テリーの巧拙（こうせつ）やミレーとかクールベーとかの実価（じつか）ハ写真版（しやしんばん）や模写（もしや）で見（み）て分（わか）らう筈（はず）ハないが（元（もと）より洋行（やうこう）したからとて在来（ざいらい）の盲者（もうしや）が俄（にわ）かに千里眼（りがん）を持（も）つやうになつて彼地（かのち）の音楽美術（おんがくびじゆつ）オペラが味（あじは）へるか何（ど）うだか疑（うたが）はしいものであるが）黒田和田岡田諸氏（くろだをかだわだしよし）のハ直筆（ぢきひつ）を見（み）るのだから、普通（ふつう）の美術思想（びじゆつしさう）があれバ直（たゞ）ちに分（わか）る筈（はず）だ。又洋行（またやうこう）しなけれバ分（わか）らんやうならバ、何故展覧会（なにゆゑてんらんくわい）を開（ひら）いて日本人（にほんじん）に見（み）せるのだ。若（も）し川上音次郎（かわかみおとじろう）がおれが芝居（しばゐ）ハアービングの型（かた）を参考（さんかう）し、テリーの身振（みぶり）を真似（まね）、サラベルナールの仮声（こはいろ）を使（つか）ひ、何々（なになに）テアトルの書割（かきわり）を習（なら）つて居（ゐ）るのだから洋行（やうこう）しなけれバ、おれの芸（げい）ハ分（わか）らないといつたら誰（た）れも墳飯（ふんぱん）しないものハなからう。理（り）に於（おい）て洋画（やうぐわ）の言（げん）もこれと同（おな）じ事（こと）だ。＠△「或（あるひ）は仏蘭西（ふらんす）あたりのお師匠様（しゝやうさま）の絵（ゑ）を見（み）たものが日本（にほん）に多（おほ）かつたらバ、さしもの白馬会門前雀羅（はくばくわいもんぜんじやくら）を張（は）るかも知（し）れぬ。」（つゞく） | |
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