| 日毎月（ひごとつき）ごとに其数（そのすう）を増（ま）し加（くは）ふる絵画（くわいぐわ）の諸会（しよくわい）の多（おほ）かる内（うち）に、特（とく）にそが開会（かいくわい）の待（ま）たるゝハ白馬会（はくばくわい）の展覧会（てんらんくわい）と美術院（びじゆつゐん）のそれとなり。後者（こうしや）ハ稍々衰色（やゝすゐしよく）ハありながら、尚（な）ほ覇（は）を日本画界（にほんぐわかい）に称（しよう）し、常（つね）に率先（そつせん）して新潮（しんてう）を齎（もた）らし来（きた）る。前者（ぜんしや）ハ我邦洋画（わがくにやうぐわ）の中堅（ちうけん）にして未（いま）だ幼稚（えうち）の観（くわん）ハあれど、着実（ちやくじつ）の進歩（しんぽ）を遂（と）げんとするの勢見（いきほひみ）ゆ。＠頃（このこ）ろ白馬会（はくばくわい）の展覧会開（てんらんくわいひら）かれたるを聞（き）き、我魂早（わがたましいはや）く既（すで）に東台（とうだい）に飛（と）びぬ。一日用（じつよう）を帯（お）びて東叡（とうえい）の山下（さんか）を過（よ）ぎり、漾々（ようよう）たる細雨（さいう）を冒（をか）し途（みち）を迂（う）して、一（ひと）たび其会（そのくわい）を瞥見（べつけん）し、深（ふか）くそが年々歳々進歩（ねんねんさいさいしんぽ）の蹟著（あといちじる）しきを喜（よろこ）びぬ。＠概（がい）して之（これ）を云（い）へバ同会（どうくわい）ハ尚（な）ほ幼稚（えうち）の域（ゐき）を脱（だつ）せず、（同会中（どうくわいちう）五六の諸大家（しよたいか）を除（のぞ）きたる多数（たすう）に就（つ）いて之（これ）を云（い）ふ）然（しか）り幼稚（えうち）なり、故（ゆゑ）に発達（はつたつ）の望（のぞ）みあり、進歩（しんぽ）の兆（てう）あり。思（おも）ふに我邦（わがくに）に於（お）ける真正（しんせい）の絵画（くわいぐわ）を振興（しんこう）せむの希望（きぼう）を属（ぞく）するに足（た）るものハ此会（このくわい）ならん。蓋（けだ）し主導（しゆどう）の先輩（せんぱい）ありて啓発宜（けいはつよろ）しきを得（え）、後進亦（こうしんま）た着実（ちやくじつ）なる進路（しんろ）を取（と）りつつあれバなり。＠それ洋画（やうぐわ）の我邦（わがくに）に伝（つた）はれる久（ひさ）しからざるにあらず、然（しか）れども真（しん）に能（よ）くそが真正（しんせい）の発展（はつてん）に向（むか）へるハ洵（まこと）に近年（きんねん）の事（こと）に属（ぞく）す。而（しかう）して其効多（そのかうおほ）く白馬会（はくばくわい）に帰（き）すべきが如（ごと）し。蓋（けだ）し従前（じうぜん）の諸会（しよくわい）ハ未（いま）だ洋画（やうぐわ）の真髄（しんずゐ）を伝（つた）ふるに及（およ）ばすして、先（ま）づ既（すで）に日本化（にほんくわ）し去（さ）りにき。然（しか）り而（しかう）して余（よ）が敢（あへ）て同会（どうくわい）を評（ひやう）して尚（な）ほ幼稚（えうち）なりと云（い）へるハ決（けつ）して之（これ）を軽（かろ）んずるにあらず。否（い）な我（われ）ハ寧（むし）ろ最（もつと）も多大（たゞい）なる希望（きぼう）を同会（どうくわい）の上（うへ）に置（お）くものなることハ既（すで）に云（い）へるが如（ごと）し。若（も）し不幸（ふかう）にして同会員（どうくわいゐん）にして我（わ）が此評（このひやう）を聞（きい）て憤怒（ふんど）するものあらバ、我（われ）ハ却（かへつ）て同会員（どうくわいゐん）の為（た）めに悲（かなし）まむ。そハ同会員（どうくわいゐん）にして現在（げんざい）の程度（ていど）を以（も）つてして早（はや）く既（すで）に老成（らうせい）を以（もつ）て任（にん）ずるが如（ごと）きことあらバ、同会（どうくわい）の前途知（ぜんとし）るべきのみ。固（もと）より黒田（くろだ）、久米（くめ）、岡田（をかだ）、三宅（みやけ）、和田諸氏（わだしよし）の如（ごと）き大家（たいか）あり、皆（み）な多年現代芸術（たねんげんだいげいじゆつ）の中心地（ちうしんち）たる巴里（ぱりー）に在（あ）りて其技（そのぎ）を研（みが）きしの人（ひと）、其他中丸（そのたなかまる）、藤島（ふぢしま）、長原（ながはら）、白瀧（しらたき）、湯浅（ゆあさ）、北（きた）、中沢諸氏（なかざはしよし）の如（ごと）き皆（み）な十数年（すねん）の修練（しうれん）を経（へ）たるの人（ひと）、鬱然（うつぜん）として此会（このくわい）の盛観（せいくわん）たることハ誰（たれ）か之（これ）を疑（うた）がはん。余（よ）も亦（ま）た諸氏（しよし）の作（さく）を敬重（けいちよう）するものなり。然（しか）れども諸氏（しよし）が今（いま）も尚（な）ほ少壮（せうさう）の意気（いき）を忘（わす）れずして進歩（しんぽ）の途上（とじやう）に在（あ）ることを信（しん）じて之（これ）を祝（しゆく）するものなり。請（こ）ふ余（よ）が率直（そつちよく）の言（げん）を容（ゆ）るせ、敢（あへ）て感（かん）ずる所（ところ）を述（の）べて諸氏（しよし）の叱教（しつげう）を仰（あふ）がんか。（つゞく） |
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