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白馬会関係新聞記事 第8回白馬会展

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白馬会雑言(四)
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| 牛門生 | 毎日新聞 | 1903(明治36)/10/23 | 1頁 | 展評 |
△白瀧幾之助氏(し)は相変(あひかは)らず社会風俗(しやくわいふうぞく)の一部(ぶ)に筆(ふで)を向(む)けらるゝは一種(しゆ)の研究(けんきう)として面白(おもしろ)く思(おも)ふ、今年(ことし)のは町中家庭(まちなかかてい)の一とも云(い)ふべき三味線(さみせん)の「復習」にて少女(せうぢよ)の習(なら)ひ居(ゐ)る情合(ぜうあひ)は充分(じうぶん)に表(あら)はれて居(ゐ)た裁縫(しごと)の手(て)を止(や)めて教(おし)へ居(ゐ)る女(をんな)の膝(ひざ)に掛(かゝ)ツて居(ゐ)る衣片(きれ)に二三点(てん)の紅色(こうしよく)を見(み)せては居(を)れど四辺(あたり)が一様(やう)に青(あを)き為(た)め何(なん)となく淋(さび)しく感(かん)ぜられた、此度(このたび)は此(この)一点丈(てんだ)けの出品(しゆつぴん)にて「月代(さかやき)」「稽古(けいこ)」以来(いらい)の贔屓客東京(ひいきかくとうけう)ツ子(こ)は稍(や)や呆気(あつけ)なく思(おも)ツたやうだ@△安藤仲太郎氏(し)は「大川口」「鴨川の夕」「暮霧」などの風景(ふうけい)いづれも面白(おもしろ)く、卒筆(そつぴつ)の間(あひだ)に捨(す)て難(がた)い風趣(ふうしゆ)を帯(お)びて居(ゐ)たは前回(ぜんくわい)よりも成効(せいかう)の方(はう)であつた@△長原孝太郎氏(し)の風景(ふうけい)の中(うち)では慥(たし)か富士(ふじ)の図(ず)かと覚(おぼ)えて居(ゐ)る(一五一)が好(よ)いように思(おも)ふ、二枚(まい)の「肖像」は豪放(がうはう)の筆(ふで)の間(あひだ)に其生気(そのせいき)を見(み)せて居(ゐ)る@△藤島武二氏(し)は昨年出品(さくねんしゆつぴん)の俤(をもかげ)に似通(にかよ)つた天平的女子(てんぺいてきぢよし)が「諧音」の様(さま)を画(か)いたが、此種(このしゆ)の人物画(じんぶつぐわ)に掛(か)けては妙(めう)に手(て)に入(い)れられて居(を)る、伸(の)び伸(の)びしたる線(せん)にて極穏(ごくおだや)かに画(か)かれ其間(そのあひだ)に自(おのづ)から高古(かうこ)の風情(ふぜい)を含(ふく)み、楽器(がくき)の模様(もやう)、其外(そのほか)の色彩(いろどり)までがよく調和(てうわ)して居(ゐ)る、唯(た)だ人物(じんぶつ)の首(くび)の細(ほそ)く見(み)ゆると左腕(さわん)の短(みじ)かく見(み)ゆるなど云(い)へば其難(そのなん)であろうか@△湯浅一郎氏(し)の出品中(しゆつぴんちう)では「道頓堀」が最(もつと)も面白(おもしろ)く見(み)られた、昨年(さくねん)の会(くわい)の時(とき)も評(へう)した色(いろ)の研究(けんきう)の結果(けつくわ)が此外(このほか)「葵橋」其他(そのた)に現(あら)はれ居(ゐ)て一の特色(とくしよく)を放(はな)つて居(ゐ)る、@△画室と題(だい)する裸体画(らたいぐわ)は組立光線(くみたてくわうせん)の取(と)り方等面白(かたとうおもしろ)く、総体摯実(そうたいしじつ)の筆(ふで)にて確(しつ)かりとした出来(でき)である、人物(じんぶつ)の輪廓(りんくわく)は正(たゞ)しけれど、股(もゝ)の辺双脚(へんさうきやく)を並(なら)べて居(ゐ)るのが左(ひだり)の股丈(もゝだ)けのやうにも見える、此等用意(これらようい)の密(みつ)ならざるところはあれど、近頃見(ちかごろみ)て心地(こゝち)よき裸体画(らたいぐわ)にて、是迄(これまで)に屡々裸体画(しばしばらたいぐわ)を試(こゝろ)みたる研究(けんきう)の功空(こうむな)しからずと謂(い)ふべく、氏(し)は今(いま)や風景(ふうけい)のみならず、人物画(じんぶつぐわ)に於(おい)ても徐(そゞ)ろに世(よ)の嘱望(しよくばう)を深(ふか)からしめて居(ゐ)る(牛門生)

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