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白馬会関係新聞記事 第8回白馬会展

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裸体画問題(らたいぐわもんだい)に就(つい)て(承前)
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| 写裸躯斎(投)| 二六新報 | 1903(明治36)/09/30 | 1頁 | 雑 |
今年(こんねん)の第(だい)五回内国勧業博覧会(くわいないこくくわんげふはくらんくわい)にも裸体画(らたいぐわ)の作品(さくひん)が陳列(ちんれつ)されたが、是等(これら)は内務(ないむ)の當局者(たうきよくしや)が一応検査(おうけんさ)をして無論差支(むろんさしつか)へ無(な)いと認(みと)められた丈(だけ)が陳列(ちんれつ)されたのである、聞(き)く所(ところ)によれば内務(ないむ)の意向(いかう)は真裸(しんら)の正面(せいめん)のものでさへなければ差支(さしつか)へはないとのことだ而(さう)して印刷物(いんさつぶつ)に対(たい)しても全(まつた)く同(おな)じ方針(はうしん)だと見(み)えて、一の美術新報(びじゆつしんぽう)に照(て)らして見(み)ても、其第(そのだい)壹巻(くわん)第(だい)壹号(がう)、明治(めいぢ)三十五年(ねん)三月(ぐわつ)三十日発行(はつかう)より第(だい)二巻第(くわんだい)十二号(がう)、明治(めいぢ)三十六年(ねん)九月(ぐわつ)五日発行(はつかう)のもの迄(まで)の中(うち)に、裸体画及(らたいぐわおよ)び裸体彫像(らたいてうざう)の類(るゐ)が載(の)せて有(あ)ること非常(ひじやう)なもので、ザツト見(み)ても二十五六点(てん)は有(あ)る、是等(これら)は大抵大家(たいていたいか)の名作(めいさく)の写(うつ)しで、腰部(えうぶ)の覆(おほ)ひ方(かた)には固(もと)より幾分(いくぶん)かの異同(いどう)は有(あ)るが、何(いづ)れも裸体(らたい)の部(ぶ)に属(ぞく)するものには違(ちがひ)ない、而(さう)して是等(これら)の作品(さくひん)が大(おほい)に美術家(びじゆつか)の参考(さんかう)に供(きよう)せられて、我美術界(わがびじゆつかい)を益(えき)すること決(けつ)して少(すく)なからざるは皆人(みなひと)の知(し)る所(ところ)である@。是(こ)れに因(よつ)て之(こ)れを見(み)れば今日(こんにち)の内務當局者(ないむたうきよくしや)の意見(いけん)の存(そん)する所(ところ)は略知(ほぼし)る可(べ)しで、要(えう)するに絵画に、彫刻に、又た印刷物に、猥褻の念を起さしむるに足るもの非ざる限りは之れを許すと云ふに在り、実(じつ)に尤(もつと)も至極(しごく)で是れが裸体画問題の第三期である。@御心配(ごしんぱい)も最早此(もはやこ)の位(くらゐ)にして置(おい)て、前(ぜん)の方針(はうしん)に拠(よ)つて取締(とりしまり)をして行(い)つたならば風俗(ふうぞく)も乱(みだ)るゝの憂(うれひ)なく、併(あは)せて芸術(げいじゆつ)の発達(はつたつ)をも図(はか)つて行(い)かれるであらう。@然(しか)らば何故(なにゆゑ)に今(いま)の行政(ぎやうせい)を名(なづ)けて両頭(りやうとう)の蛇(へび)と云(い)ふか、之(こ)れ他(た)なし、凡(およ)そ一の美術展覧会(びじゆつてんらんくわい)を開設(かいせつ)するに當(あた)つては、先(ま)づ警察署員(けいさつしよゐん)が出張(しゆつちやう)して陳列品(ちんれつひん)を監査(かんさ)し、警官其人(けいくわんそのひと)の意見(いけん)に因(よ)つて作品(さくひん)の運命(うんめい)を決(けつ)せらるゝ次第(しだい)であるから時(とき)に内務(ないむ)の意向(いかう)と大(おほい)に異(こと)なつたる判断(はんだん)を下(くだ)さるゝことなきを保(ほ)せず、然るときは則ち内務と警視庁と同一物品の取捨に於て二様の方針を有するものと云はざるを得ず、一は美醜の解釈を明かにし、印刷物にさへも裸体を許し、一は堂々たる美術作品に対して、敢て警察眼なる者の美術眼と異なる所以を知らしめんとす、是れ両頭の蛇と云はずして何ぞや。(つゞく)

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