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白馬会関係新聞記事 第8回白馬会展

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美術眼
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| 東京日日新聞 | 1903(明治36)/10/08 | 4頁 | 展評 |
△驚(おどろ)いたのは上野白馬会展覧会(うへのはくばくわいてんらんくわい)の裸体画処分(らたいぐわしよぶん)だ記者(きしや)が開会早々見(かいくわいさうさうみ)に往(いつ)た時(とき)に別室(べつしつ)が設(まう)けられて居(い)て厳重(げんじう)に取締(とりしまり)をやつて居(ゐ)たから之(こ)れは優等品丈(ゆうとうひんだ)けを恁(か)う云(い)ふやうにして見(み)せるのか其(そ)れにしては不断平等主義(ふだんびやうどうしゆぎ)の白馬会(はくばくわい)には似合(にあ)はぬ仕方(しかた)と思(おも)つて先日一寸鄙見(せんじつちよつとひけん)を述(の)べて置(をい)たが其後両(そのごりやう)三回(くわい)も同展覧会(どうてんらんくわい)へ出(で)かけて様子(やうす)を聞(きい)て見(み)ると全(まつた)く警察(けいさつ)から別室設置(べつしつせつち)を命(めい)じたことゝ分(わか)つた@いつも乍(なが)ら美術品(びじゆつひん)に対(たい)して警察(けいさつ)の処置(しよち)は失錯(しつさく)を重(かさ)ぬる計(ばか)りだ腰巻別室(こしまきべつしつ)五十歩(ほ)百歩(ほ)だ然(しか)し今回(こんくわい)の別室(べつしつ)は腰巻(こしまき)に比(ひ)して慥(たしか)に一進歩(しんぽ)を示(しめ)した方法(はうはう)には違(ちがい)ないがどう考(かんがへ)て見(み)ても美術品(びじゆつひん)の鑑定(かんてい)を警察(けいさつ)に委(まか)せて置(を)くと云(い)ふのは不當(ふとう)だと信(しん)ずる@今度別室入(こんどべつしついり)を命(めい)ぜられた裸体画(らたいぐわ)が他(た)の許(ゆる)された裸体画(らたいぐわ)よりどの位不都合(くらゐふつがふ)なものであるか甚(はなは)だ其解釈(そのかいしやく)に困(くる)しむのである恐(おそ)らく満天下(まんてんか)一人(にん)も明(あきら)かに其理由(そのりゆう)を説明(せつめい)し得(う)るものは有(あ)るまいと思(おも)ふ記者(きしや)も美術(びじゆつ)に就(つい)ては聊(いささ)か眼(め)がある積(つも)りだが今度(こんど)の区別(くべつ)ばかりは何(なん)の意味(いみ)だか薩張分(さつぱりわか)らぬ斯様(かやう)な無意識(むいしき)な仕事(しごと)をするから警官(けいくわん)が薩人(さつじん)だらうなどゝ云(い)ふ悪口(わるくち)も出(で)るのだ@序(ついで)に今少(いますこ)し白馬会(はくばくわい)の事(こと)を記(しる)して見(み)やう今回(こんくわい)の展覧会(てんらんくわい)は今迄(いまゝで)に無(な)く良(よ)く整頓(せいとん)して居(を)る此(こ)の整頓(せいとん)の姿(すがた)を見(み)て出品(しゆつぴん)が未(ま)だ出揃(でそろ)はずに淋(さ)みしいと云(い)つた人(ひと)も有(あ)つたが其(そ)れは大間違(おほまちがい)で普通(ふつう)の日本(にほん)の展覧会(てんらんくわい)の無頓着(むとんじやく)な陳列法(ちんれつはふ)を以(もつ)て立派(りつぱ)なものと思(おも)つて居(を)る弊(へい)であらう美術品(びじつひん)を勧工場的(くわんこうばてき)にごてごて並(なら)べられてたまるものか@白馬会(はくばくわい)で最(もつと)も注意(ちうい)したのは入口(いりぐち)の飾門(かざりもん)であるやうだ此(こ)の程漸(ほどやうや)く其建築(そのけんちく)が出来上(できあが)つたが成(な)る程僅(ほどわづ)か一ケ月や一ケ月半位(はんくらい)の展覧会(てんらんくわい)の門(もん)としては立派過(りつぱすぎ)る位(くらゐ)だ会員岡田佐野(くわいゐんおかださの)の両氏(りやうし)の設計(せつけい)だそうだが画家連(ぐわかれん)で斯様(かやう)な建築(けんちく)がやれるとすれば本職(ほんしよく)の建築家達(けんちくかたち)は一番奮発(ばんふんぱつ)して外国人(ぐわいこくじん)が日本土産(にほんみやげ)に写真(しやしん)でも買(か)つて帰(かへ)る位(くらゐ)の建物(たてもの)を拵(こしら)へてほしい@飾門(かざりもん)の正面(しやうめん)に「モザイツク」で飾(かざり)を附(つ)けたのは殊(こと)に目新(めあた)らしく却々好(なかなかよ)い思(おも)ひ付(つ)きだ此(こ)の「モザイツク」の製作者(せいさくしや)は矢張会員(やはりくわいゐん)の中丸氏(なかまるし)で同氏(どうし)は油画(あぶらゑ)の風景画(ふうけいぐわ)も数面出品(すうめんしゆつぴん)して居(を)る「モザイツク」は今(いま)、日本(にほん)でも中丸氏(なかまるし)の専有(せんいう)で他(ほか)に製作(せいさく)の出来(でき)る人(ひと)は無(な)い氏(し)は現(げん)に横浜正金銀行(よこはましようきんぎんこう)の正門上(しやうもんじやう)の装飾(そうしよく)に従事(じうじ)して居(を)るとのことだ是(こ)れから此(こ)の「モザイツク」が流行(りうこう)するやうにしたいものだ誠(まこと)に立派(りつぱ)で厭味(いやみ)の無(な)いいゝものだ

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