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白馬会関係新聞記事 第8回白馬会展

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白馬会展覧会評(はくばくわいてんらんくわいひやう)(上)
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| 黒白子 | 中央新聞 | 1903(明治36)/10/20 | 1頁 | 展評 |
有名(いうめい)な白馬会(はくばくわい)、裸体画(らたいぐわ)を以(もつ)て作品(さくひん)の多(おほ)いを以(もつ)て有名(いうめい)な白馬会(はくばくわい)は、今(いま)や其展覧会(そのてんらんくわい)を以(もつ)て東台(とうだい)の秋(あき)を飾(かざ)つて居(ゐ)る。其作品(そのさくひん)といへば四百数(すう)十点(てん)、裸体画(らたいぐわ)といへば黒田清輝(くろだきよてる)の三点(てん)に岡田湯浅(おかだゆあさ)ヘンリー、デユモン等(ら)の幾点(いくてん)がある。名(な)にし負(お)ふものとてずつと観通(みとほ)しはしたが、どうしても、黒田(くろだ)のは勿論(もちろん)だが、和田岡田三宅(わだおかだみやけ)の三人(にん)の作品評(さくひんひやう)になつて了(しま)う様(やう)である。然(しか)し夫(それ)は拘(かま)はずとして観(み)た侭(まゝ)の評(ひやう)を記(しる)さう。@△岡田(をかだ)三郎助(ろすけ)の筆(ふで)では微風(びふう)と題(だい)した裸体画(らたいぐわ)が一番(ばん)の出来(でき)であらう。人物(じんぶつ)にも左程(さほど)の難(なん)は見(み)えぬが、後景(こうけい)との配合極(はいがふきは)めて善(よ)く中々軽(なかなかかろ)く出来(でき)て色(いろ)など非常(ひじやう)に快(よ)い気持(きもち)を与(あた)へる之(これ)は特別室(とくべつしつ)のに比(くら)べて大変(たいへん)な差(さ)があると思(おも)ふ。其他(そのた)では「京(きやう)の春雨(はるさめ)」之(これ)は京(きやう)の舞子(まひこ)の写生(しやせい)であるが、中々色(なかなかいろ)も鮮(あざや)かに京風(きやうふう)をよく現(あら)はして綺麗(きれい)な好(よ)い出来(でき)である。其他(そのた)「巴理(ぱりー)の記念(きねん)」など郊外(かうぐわい)の色(いろ)がよく出(で)て非常(ひじやう)に快(こゝろよ)い、作者(さくしや)は中々軽妙(なかなかけいめう)の点(てん)に勝(すぐ)れて小品(せうひん)の間(あひだ)に大(おほい)に才気乱発(さいきらんはつ)の風(ふう)が窺(うかゞ)はるゝやうである然(しか)し全体(ぜんたい)に此前(このまへ)の会(くわい)の出品(しゆつぴん)よりは劣(おと)つてゐるやうである。@△和田英作(わだえいさく)は帰来初(きらいはじめ)ての出品(しゆつぴん)と云(いふ)ので中々努(なかなかつとめ)た趣(おもむ)きが見(みえ)る「肖像(せうざう)」中々洒落(なかなかしやれ)た画(ゑ)である同(おな)じく「肖像(せうざう)」で洋装(ようそう)の分(ぶん)は善(よ)く美人(びじん)が描(ゑがけ)て優(やさし)く巧(たくみ)に出来(でき)てゐる。風景(ふうけい)では「夕凪(ゆふなぎ)」雲(くも)が非常(ひじやう)に善(よ)く出来(でき)て、之(これ)は流石(さすが)の腕前(うでまへ)と思(おもは)れた、海(うみ)の面(も)はどうであらうか少(すこ)し変化(へんくわ)に乏(とぼ)しき感(かん)じがある、畢竟雲(ひつきやうくも)のみに全力(ぜんりよく)を注(そゝ)いだ為(ため)に他(ほか)が多少疎(たせうおろそか)になったのではあるまいか。「夕暮(ゆふぐれ)の三保(みほ)」全体松(ぜんたいまつ)は六(むつ)ケしいものを得意丈(とくいだけ)によく描(か)いてあるが、少(すこ)し色(いろ)が寒過(さむすぎ)るやうである。「思郷(しきやう)」之(これ)は巴理(ぱり)のサロンに出品(しゆつぴん)された画(ゑ)で、最初出来上(さいしよできあが)ツた時(とき)には後景(こうけい)などが見(み)えて居(を)ツたのを、コランが是(こ)れを切(き)り捨(す)て縮(ちゞ)めたものとか、夫(それ)はさうとして中々充分(なかなかじうぶん)に写生(しやせい)されて好出来(よいでき)である。@△藤島武(ふじしまたけ)二の「諧音(かいおん)」慥(たしか)に成効(せいかう)な作(さく)である、色(いろ)の調和(てうわ)が當(たう)を得(え)て居(い)る為(た)めに何(なん)となく高尚(かうしやう)な感(かん)じを与(あた)える。然(しか)し左(ひだり)の手(て)が少(すこ)し変(へん)で、瞳(ひとみ)は今少(いますこし)し強(つよ)くあり度(た)いが、是等(これら)の難(なん)を除(のぞ)かば肉色(にくいろ)も難(なん)なくバツクの組立(くみたて)も非常(ひじやう)に優雅(ゆうが)に出来(でき)てゐる。

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