| △軟風街頭（なんふうがいたう）のプラタン樹（じゆ）を吹（ふ）いて、セイヌの河水為（かすゐため）に緑濃（みどりこまやか）なるの時（とき）、サロンは開（ひら）かるゝなり。白露郊墟（はくろかうきよ）に墜（お）ちて、東台満山（とうたいまんざん）の樹葉漸（じゆえうやうや）く黄（き）ならんとするの際（さい）、我（わ）が展覧会（てんらんくわい）は催（もよほ）さるゝなり。観画（くわんぐわ）の季節彼（きせつかれ）は春（はる）なり、此（これ）は秋（あき）なり。彼此（ひし）一年（ねん）の好時期（かうじき）、自然（しぜん）の美（び）、謳（うた）ふべく、芸能（げいのう）の美味（びあぢは）ふべし。＠△余（われ）は多大（ただい）の嘱望（しよくばう）と楽（たの）しみを抱（いだ）きつゝ白馬会展覧会（はくばくわいてんらんくわい）を観（み）んとて駛（かけ）り往（ゆ）きぬ。到（いた）り著（つ）きて、まづ其表門（そのおもてもん）に驚（おどろ）きたり。しつくいか石膏細工（せきこうざいく）なるべけれどロ－マン、ゴチツク式（しき）を模（も）したる宏壮秀雅（くわうさうしうが）の石造（せきぞう）ともみえて、ゆゝしく。上部（じやうぶ）を飾（かざ）れる、美神（びしん）、ラツフアエル、ランブラントのモザイツクの精巧（せいこう）など、我邦絵画会空前（わがくにくわいがくわいくうぜん）の装飾（さうしよく）にして、斯会（しくわい）が第（だい）一回展覧会（くわいてんらんくわい）は唯纔（ただわづ）かに縄暖簾（なはのれん）をつるし置（おき）たるに比（くら）べ、其進歩発達洵（そのしんぽはつたつまこと）に愕（おどろ）くべく、亦慶（またよろこ）ぶべきなり。＠△其門（そのもん）にして既（すで）に此（かく）の如（ごと）し。況（いわ）んや其裡（そのうち）に陳列（ちんれつ）せられたるの製作（せいさく）に於（おい）ては、定（さだ）めて更（さら）に刮目（かつもく）すべきものあらんと思推（しすゐ）し、多（おほ）くの楽（たのしみ）を以（も）つて入場（にふぢやう）したる余（われ）は、底事（なにこと）ぞ底事（なにこと）ぞ終（つひ）に失望（しつぼう）に了（をわ）らんとは。＠△敢（あへ）て幀幅（たうふく）の大（だい）なるを望（のぞ）まず、敢（あへ）えて題目（だいもく）の変化（へんくわ）なきを憾（うら）みとせず。而（し）かも其情味（そのじやうみ）の掬（きく）すべきなく、詩趣（ししゆ）の横溢（わういつ）するものなき、駄作凡作（ださくぼんさく）の数多（すうおほ）くを駢（なら）べられたるに至（いた）つては、寧（むし）ろ白馬会（はくばくわい）の為（ため）に深（ふか）く惜（を）しまずんばあらず。＠△洋（よう）の西（にし）の油絵（あぶらゑ）と洋（よう）の東（ひがし）のそれと、比較（ひかく）するの迂（う）なるを知（し）り、又我（またわ）が歴史風土（れきしふうど）に察（さつ）せず、一概（がい）に幼稚（ようち）なりと排斥（はいせき）し去（さ）るの愚（ぐ）なるを知（し）ると雖（いへど）も、四五幀（たう）を除（のぞ）くの外（ほか）、趣味（しゆみ）に乏（とぼ）しきの点（てん）は蓋（けだ）し否定（ひてい）すべからざるの事（こと）なり。＠△是（こ）れ其所作（そのしよさく）の多数（たすう）が初学者（しよがくしや）のものなるが故（ゆゑ）に、一画（ぐわ）を描（ゑが）くに當（あた）り、如何（いか）にせば其色其形（そのいろそのかたち）を写（うつ）し得（う）べきやといふに汲々（きふきふ）として未（いま）だ情趣（じやうしゆ）の発揮（はつき）を顧（かへりみ）るの遑（いとま）なきが為（ため）なる無（な）からんや。而（しか）して如此（かくのごとく）にして成（な）りし作（さく）をも併（あは）せてこゝに陳列（ちんれつ）する事果（ことはた）して白馬会（はくばくわい）の為（ため）に得策（とくさく）なるや否（いな）や。＠△初学者（しよがくしや）のもの悉（ことごと）く悪（あ）しゝといふに非（あら）ず、またこゝに出（いだ）されたるもの必（かなら）ずや其師（そのし）の鑑査（かんさ）を経（へ）たるものなるべし、されど余（われ）は其監査（そのかんさ）を今（いま）一層高級（そうかうきふ）にして、彼（か）のサロンに出（い）づれば賞（しやう）なきも既（すで）に栄誉（えいよ）なるが如（ごと）くにし、所謂（いわゆる）一粒撰（ひとつぶえ）りの展覧会（てんらんくわい）たるを庶幾（しよき）するものなり。雀（すずめ）の百羽（ぱ）千疋（びき）も遂（つ）ひに吉光（きつくわう）の片羽（へんは）に如（し）かず。＠△いでや少（すこし）く四五の所作（しよさく）を品隲（ひんとう）せんかな。（つゞく） |
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