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白馬会関係新聞記事 第8回白馬会展

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白馬会の陳列法
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| 国民新聞 | 1903(明治36)/09/29 | 5頁 | 展評 |
此秋(このあき)の白馬会(はくばくわい)が昨年(さくねん)の展覧会(てんらんくわい)に比(ひ)して一段(だん)の進歩(しんぽ)を見(み)せ又(ま)た会員中錚々(くわいゐんちうさうさう)の聞(きこ)えある岡田(をかだ)、和田(わだ)の諸氏(しよし)が我邦内(わがほうない)の事物(じぶつ)に筆(ふで)を染(そ)めて出品(しゆつぴん)したるなど上野(うへの)の秋(あき)は一に此会(このくわい)の為(た)めに賑(にぎは)ふといふも過言(くわげん)にあらざれども総数(そうすう)三百余点(よてん)の陳列方法従来(ちんれつはうはふじうらい)と其趣(そのおもむき)を異(こと)にする為(た)め観覧上少(くわんらんじやうすく)なからざる不便(ふべん)あり即(すなは)ち画題(ぐわだい)、作家(さくか)、代価等(だいかとう)を一々画其物(ぐわそのもの)に附(ふ)せずして一葉(えふ)の目録(もくろく)として之(こ)れを一区域毎(くゐきごと)に掲出(けいしゆつ)し観覧者(くわんらんしや)をして一画毎(ぐわごと)に一度(ど)づゝ其掲示(そのけいじ)の下(もと)に立寄(たちよ)らざるを得(え)ざらしむ時間(じかん)の不経済此上(ふけいざいこのうへ)なく場内(ぢやうない)の混雑亦(こんざつま)た甚(はなはだ)し仮(かり)に或者(あるもの)の云(い)ふが如(ごと)く同会(どうくわい)は由来平等主義(ゆらいびやうとうしゆぎ)なれば会員(くわいゐん)の出品(しゆつぴん)一統(とう)と見倣(みな)して其間(そのあひだ)に何等(なんら)の階級(かいきう)を設(まう)けず観覧者思(くわんらんしやおも)ひ思(おも)ひに品評(ひんぴやう)して数(かぞ)ある中(なか)より傑作佳作(けつさくかさく)を見出(みだ)すの方法(はうはふ)に出(い)でたりとするも斯(か)くては余(あま)りに多(おほ)く観覧者(くわんらんしや)を買被(かひかぶ)りたるものにして実際我邦人(じつさいわがほうじん)の油絵鑑賞眼(あぶらゑかんしやうがん)は一部(ぶ)の人士(じんし)を除(のぞ)きては未(いま)だ極(きは)めて幼稚(えうち)なり此(こ)の幼稚(えうち)なる観覧者(くわんらんしや)をして無名(むめい)(勿論英語(もちろんえいご)の署名(しよめい)あるもあれど)の画(ぐわ)より直(ただ)ちに其(そ)の作家(さくか)を鑑定(かんてい)せしめんとす趣味(しゆみ)ありといへば云(い)ひ得(う)べきも之(こ)れ至難(しなん)なり或意味(あるいみ)に於(おい)ては今回(こんくわい)の陳列方法(ちんれつはうはふ)は極(きは)めて宣(よろ)しきを得(え)たるものなるべし然(さ)れど場内(ぢやうない)の混雑(こんざつ)を如何(いかん)せん又(ま)た具眼者稀(ぐがんしやまれ)なる観覧者(くわんらんしや)の多(おほ)きを如何(いかん)せん所詮(しよせん)は尚(な)ほ少(すこ)しく簡便(かんべん)にして趣味(しゆみ)ある陳列法(ちんれつはふ)を執(と)らむを願(ねが)はざるを得(え)ず

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