| 湯浅一郎 の出品総数（しゆつぴんそうすう）十八点（てん）の中稍大（うちやゝおほ）きいのハ磯と題（だい）するのと海士と云（い）ふ画（ぐわ）とで有（あ）るが磯の方（はう）が骨（ほね）の折（を）れた所（ところ）も見（み）えて実（じつ）に面白味（おもしろみ）の多（おほ）い愉快（ゆくわい）な画（ぐわ）だ。夏（なつ）の真盛（まつさか）りと見（み）える海岸（かいがん）の大（おほ）きな岩（いは）に烈（はげ）しい日光（につくわう）が直射（ちよくしや）して、海（うみ）の鮮（あざ）やかな色（いろ）ハ蒼（あを）く澄（す）んで、帆（ほ）を上（あ）げた舟（ふね）ハ静（しづか）に其（そ）の上（うへ）を走（はし）る所（ところ）を描（ゑが）いた物（もの）で、岩（いは）に日（ひ）の射（うつ）つた色（いろ）から水（みづ）の色（いろ）まで好（よ）く夏（なつ）の気持（きもち）が顕（あら）はれて居（ゐ）る、然（しか）し海（うみ）に浮（うか）んで居（ゐ）る白帆（しらほ）の調子（てうし）ハ少（すこ）し外（はづ）れて居（ゐ）ハ為（し）まいかと思（おも）ふ。世人（せじん）ハ何故大（なぜおほ）きな作（さく）に計（ばか）り眼（め）を止（と）めて此様云（かうい）ふ研究（けんきう）をした画（ゑ）に注意（ちうい）しないので有（あ）るか実（じつ）に不思議（ふしぎ）に思（おも）はれるので有（あ）る、海士（あま）の方（はう）ハ形（かたち）に苦（くる）しんだ跡（あと）ハ確（たしか）に見（み）えて居（ゐ）るけれども何様云（どうい）ふ時（とき）に何（なに）をして居（ゐ）るのか少（すこ）し判然（はんぜん）しない様（やう）だ、其（それ）に右（みぎ）の足（あし）が左（ひだり）の股（また）から出（で）て居（ゐ）る様（やう）に思（おも）はれる、只巧（たゞうま）いのハ竹篭（たけかご）に画（かい）て有（あ）る字（じ）の色（いろ）が如何（いか）にも墨（すみ）のかすれた様（やう）に見（み）えるので有（あ）る。浪の画（ゑ）ハ二枚有（まいあ）るが三０二の方（はう）ハ極（ご）く手前（てまへ）が少（すこ）し粗末（そまつ）なのと打寄（うちよ）せた波（なみ）の岩（いは）の上（うへ）に有（あ）る説明（せつめい）が足（た）り無（な）いのが欠点（けつてん）で寧（むし）ろ三０六の小（ちい）さい方（はう）が気持（きもち）から色（いろ）まで中々好（なかなかよ）く描（や）つて有（あ）る。燈下読書ハ磯（いそ）に次（つ）ぐ傑作（けつさく）で好（よ）いにハ相違無（さうゐな）いが暗（くら）い所（ところ）の色（いろ）が何所（どこ）もかも同（おな）じ様（やう）で、光（ひか）りが一体（たい）に弱（よわ）い様（やう）で有（あ）る、小（ちい）さい物（もの）でハ日の出、漁舟、夜の疊島、生洲、斜陽等（とう）が巧（うま）い方（はう）で有（あ）る、日の出ハ水平線（すゐへいせん）が曲（まが）つて居（ゐ）るので気（き）になるし、漁舟ハ空（そら）も水（みづ）も色（いろ）ハ好（よ）いが余（あま）り気持（きもち）と云（い）ふ事（こと）に過（す）ぎて変化（へんくわ）に乏（とぼ）しい様（やう）だ、夜（よる）の疊島（たゝみじま）ハ手前（てまへ）の方（はう）の右（みぎ）と左（ひだり）から寄（よ）せて来（き）た波（なみ）の淡（あは）く白（しろ）いのハ如何（いか）にも好（よ）いが桟橋（さんばし）の下（した）の真中辺（まんなかあた）りハ何（なん）と無（な）く急流（きふりう）の様（やう）に思（おも）はれて海（うみ）の様（やう）に見（み）え無（な）いのハ如何云（どうい）ふものだらうか、生洲ハ如何（いか）にも静（しづ）かに出来（でき）て居（ゐ）るが突（つ）き出（だ）した岩（いは）に當（あた）つた日光（につくわう）が二所（とこ）ろ同（おな）じ様（やう）なのハ平（ひら）たく思（おも）へるのだ、斜陽ハ最（もつと）も好（よ）い出来（でき）で空（そら）の暗（くら）く成（な）つた時（とき）の横日（よこひ）が陸（りく）に上（あが）つて居（ゐ）る舟（ふね）に射（さ）した様（さま）を巧（たくみ）に描（か）いて居（ゐ）る、全体（ぜんたい）から云（い）ふと此（こ）の人（ひと）の画（ゑ）にハ外国（ぐわいこく）の絵葉書（ゑはがき）なぞに有（あ）る石版（せきばん）の色（いろ）が多（おほ）い様（やう）だ、研究（けんきう）もして有（ある）し面白（おもしろ）くも有（あ）るが最（も）う一足踏（あしふ）み込（こ）んで印刷物（いんさつもの）らしい色（いろ）を脱（だつ）して貰（もら）い度（た）い物（もの）だ。＠黒田清輝 のパステル画（ぐわ）の雪ハ奇麗（きれい）な物（もの）だ、鉛筆画（えんぴつぐわ）の湖（みづうみ）ハ遠（とほ）くの森（もり）の描法（べうはふ）から人物（じんぶつ）の形（かたち）までデツサンを見（み）る様（やう）で何所（どこ）と無（な）くしつかりした所（ところ）が有（あつ）て面白味（おもしろみ）の有（あ）る画（ゑ）だ、色鉛筆（いろえんぴつ）ハ山の方（はう）が好（よ）い其（それ）にウオスパーの肖像（せうざう）ハ余（あま）り好（よ）い画（ゑ）でハ無様（ないやう）だ＠サルジヤン 筆（ふで）の肖像（せうざう）ハ鉛筆（えんぴつ）で世界（せかい）に有名（いうめい）な物丈（ものだけ）あつて実（じつ）に軽（かる）く出来（でき）てゐるが其（それ）でゐてごまかしの無（な）い所（ところ）が価値（ねうち）で有（あ）る。＠岡田三郎助 の木炭画（もくたんぐわ）、三点（てん）の中（うち）三四四の顔（かほ）が真面目（まじめ）の物（もの）だパステル画（ぐわ）を見（み）ると同氏（どうし）の油画（あぶらゑ）を思（おも）ひ出（だ）す様（やう）で、軽（かる）い調子（てうし）で柔（やわら）かい所（ところ）ハパステル画（ぐわ）に味（あぢ）が有（あ）る様（やう）だ。＠中沢弘光 の水彩（すゐさい）ハ渓流と糸繰とが最（もつと）も好（よ）い、スケツチの光丈（ひかりだけ）で描（ゑが）いた物（もの）ハ何（なに）かの挿画（さしゑ）にでも為（し）たら好（よ）からうと思（おも）はれる、＠藤島武二 の版画（はんぐわ）では石門の戦最（いくさもつと）も妙（めう）、色鉛筆（いろえんぴつ）は居酒屋なぞが面白（おもしろ）い方（はう）だ、＠岸畑久吉 の裏店は全体（ぜんたい）に紫（むらさき）つぽい色（いろ）が多（おほ）いのと人間（にんげん）の形（かたち）の如何（いかゞ）はしいのが厭（いや）だ。＠岡野栄 のペン画（ぐわ）は曰（いは）く粗（そ）。＠山下新太郎 の老女は形（かたち）が無茶（むちや）だ、パステルは未（いま）だ店（みせ）を広（ひろ）げる迄行（までゆ）か無（な）い様（やう）だ。＠磯野吉雄 の晩帰は好（い）い加減（かげん）に過（す）ぎはしまいか之（これ）も人物（じんぶつ）が怪（あや）しい物（もの）だ。
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