黒田記念館 > 研究資料 > 白馬会関係新聞記事 > 第7回白馬会展

白馬会関係新聞記事 第7回白馬会展

戻る
白馬会画評(はくばくわいぐわひやう)(三)
目次 |  戻る     進む 
| 都新聞 | 1902(明治35)/10/12 | 1頁 | 展評 |
塩見競 の葱洗ひを初(はじ)め山と水、暮、桃花の四面(めん)の中(うち)、山と水ハ最(もつと)も苦心(くしん)の作(さく)と見(み)ゆる割合(わりあひ)にハ中景(ちうけい)の肝要(かんえう)な部分(ぶゞん)が如何(いか)にも粗末(そまつ)で未(いま)だ未成(みせい)の物(もの)の様(やう)に思(おも)はれる。空(そら)と山(やま)とが一番好(ばんよ)く出来(でき)て居(ゐ)るが中景(ちうけい)の砂(すな)と水(みづ)との境(さかひ)に厭(いや)なインキ色(いろ)が無遠慮(ぶえんりよ)に用(もち)ゐて有(あ)るので不快(ふくわい)の感(かん)じがした。葱洗(ねぎあら)ひハ同(おな)じ様(やう)な影(かげ)が処嫌(ところきら)はず有(あ)るので厭(いや)だ、其(それ)に平(ひらツ)たき土(つち)と土手(どて)との面(めん)の区別(くべつ)が曖昧(あいまい)だ、最(もつと)も好(よ)いのハ桃花の図(づ)で空(そら)と桃(もゝ)とのはなれ具合(ぐあひ)なぞハ巧(うま)いものだが調子(てうし)が弱(よわ)いので展覧会向(てんらんくわいむき)の画(ぐわ)でハ無(な)い様(やう)だ、暮ハ或(あ)る一部(ぶ)の人(ひと)の好(す)き相(さう)な位置(ゐち)だが森(もり)と空(そら)との境(さかひ)が堅(かた)く薄(うす)ツペラの感(かん)じがする其(それ)に家(いへ)も砂(すな)も何(なに)もかも少(すこ)し紫色(しゝよく)が多(おほ)い様(やう)だ。@森川松之助 曇りと朝と紅葉の三枚(まい)の中(うち)、朝の画(ゑ)が一番親切(ばんしんせつ)で有(あつ)て、色(いろ)も好(よ)い、只後姿(たゞうしろすがた)の女(をんな)の形(かたち)が頗(すこぶ)る怪(あや)しいのが遺憾(ゐかん)で有(あ)る曇りよりハ紅葉の方(はう)が好(よ)くこなして有(あ)る、雨の空(そら)ハ不思議(ふしぎ)な色(いろ)だ、全体筆使(ぜんたいふでつか)ひが歯切(はぎ)れ好(よ)く一寸見(ちよつとみ)にハ好(よ)いが余(あま)り軽過(かるすぎ)る処(ところ)が有(あ)るので水彩(すゐさい)でハ無(な)いかと思(おも)はれる位(くらゐ)だ。@小林萬吾 の難破船救助、場中第(ぢやうちうだい)一の大作(たいさく)で人物(じんぶつ)の数(すう)も二十何人(なんにん)と云(い)ふのだから頗(すこぶ)る注目(ちうもく)す可(べ)き物(もの)で有(あ)るが、活動(くわつどう)の上(うへ)から云(い)ふと此(かく)の如(ごと)き場合(ばあひ)の瞬間(しゆんかん)の活動(アクシヨン)としてハ、いづれも鈍(にぶ)い様(やう)で手(て)を口(くち)に當(あ)てゝ呼(よ)んで居(ゐ)る男(をとこ)の形(かたち)なぞハ随分怪(ずゐぶんあや)しいものだ、其(それ)に空(そら)の雲(くも)が人間(にんげん)から極(きは)めて近(ちか)く見(み)えるのハ人物(じんぶつ)の調子(てうし)が弱(よわ)い故(せい)でも有(あ)らうが仕上(しあげ)る迄(まで)にハ今(いま)一層強(そうつよ)い色(いろ)を使(つか)つたらしつかりした物(もの)が出来上(できあが)るだらうと思(おも)はれる。但(たゞ)し之丈(これだけ)の大作(たいさく)を初(はじ)めた勇気(ゆうき)ハ実(じつ)に称(しよう)す可(べ)きだが、慾(よく)を云(い)へバ此様(このやう)な量(かさ)ばかり大(おほ)きい物(もの)で無(な)く、四尺(しやく)に六尺位(しやくぐらゐ)にして充分(じうぶん)にやつて見(み)て貰(もら)ひ度(た)い。其他(そのた)、小品(せうひん)でハ春の海と朝の雪が傑作(けつさく)だ、殊(こと)に春の海ハ調色(てうしよく)の具合(ぐあひ)が誠(まこと)に柔(やはら)かく黒田(くろだ)の旧作(きうさく)だと云(いつ)ても先(ま)づ左様(さやう)かと思(おも)はれる位(くらゐ)だ。@戸田謙二 の晩秋ハ色(いろ)の多(おほ)い点(てん)から言(い)へバ実(じつ)に好(よ)い作(さく)で調子(てうし)も好(よ)く非難(ひなん)の少(すく)ない物(もの)で有(あ)るが、描法(べうはふ)の上(うへ)から云(い)ふと右(みぎ)の垣根(かきね)と日(ひ)の射(うつ)つた紅葉(もみぢ)の木(き)とハ葉(は)が重々(おもおも)しくてぼとりぼとりと落(お)ちたら音(おと)がし相(さう)で有(あ)る。其(それ)に溝(みぞ)の中(なか)の落葉(おちば)も手前(てまへ)の方(はう)が少(すこ)し描(か)き足(た)り無(な)い様(やう)だし、真中(まんなか)に有(あ)る赤(あか)い杉(すぎ)の幹(みき)が恰(あたか)も煙突(えんとつ)の様(やう)だ、然(しか)し風景画(ふうけいぐわ)として場中屈指(ぢやうちうくつし)の佳作(かさく)で有(あ)る。下(した)の朝(あさ)と云(い)ふ田甫(たんぼ)の画(ぐわ)も遠景(ゑんけい)が柔(やはら)かで佳(よ)い。

  目次 |  戻る     進む 
©独立行政法人国立文化財機構 東京文化財研究所