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白馬会関係新聞記事 第7回白馬会展

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白馬会展覧会概評(はくばくわいてんらんくわいがいへう)(七)
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| 牛門生 | 毎日新聞 | 1902(明治35)/10/25 | 1頁 | 展評 |
◎磯野吉雄氏(し)の習作人物、筆(ふで)こわく見(み)るに堪(た)へない、雲は日光(につくわう)を帯(お)びて居(ゐ)る工合一寸(ぐあひちよつと)よかッた、宇和川通喩氏(し)の読書人物(じんぶつ)は気(け)たゝましい顔(かほ)をして居(ゐ)た、簾(すだれ)が頗(すこぶ)る叮嚀(ていねい)なので簾屋(すだれや)の看板(かんばん)などゝほざいて居(ゐ)たものもあッた春の林、春の小川は先(ま)づよしの方(はう)か@◎三宅克巳氏(し)の水彩画(すゐさいぐわ)は今年(こんねん)も二十点近(てんちか)くを出(いだ)し一方(ぱう)の壁面(へきめん)を掩(お)つて居(を)るが、不相変誠実(あひかはらずせいじつ)なる描法(べうはふ)は嬉(うれ)しく思(おも)ふ、巴里(ぱーりー)の小景物何(せうけいものいづ)れも面白(おもしろ)いが中(なか)にはポン、サンミツシエルの如(ごと)く往々綿密(わうわうめんみつ)に過(す)ぎて銅版的(どうばんてき)となり余情(よぜう)も何(なに)も感(かん)ぜられぬのがある、是(こ)れ氏(し)の長所(てうしよ)に伴(ともな)へる短所(たんしよ)であろうが注意(ちうい)を請(こ)ひ度思(たくおも)ふ暴れ模様は比較的大作(ひかくてきたいさく)であるが雲(くも)の工合(ぐあひ)より渓流(けいりう)に日光(につくわう)の横射(わうしや)せる工合面白(ぐあひおもしろ)く充分(じうぶん)の重(おも)みも厚味(あつみ)もありて暴(あ)れ前(まへ)の凄然(せいぜん)たる情(ぜう)を感(かん)ぜしめる、水彩画(すゐさいぐわ)と云(い)へども油絵同様(あぶらゑどうやう)のエッフヱクトを齎(もたら)し来(きた)る所流石(ところさすが)に氏(し)ならではと思(おも)つた、夕の市街も色面白(いろおもしろ)く宛然(えんぜん)一幅(ぷく)の油絵(あぶらゑ)であッた@◎長原孝太郎氏(し)の(デツサン)船頭の妻は一寸面白(ちよつとおもしろ)い図(づ)だが、傍(そば)の子供(こども)の頭(あたま)が気(き)に掛(かゝ)るやうだ、(石版画(せきばんぐわ))停車場の夜の子(こ)を負(お)ぶい居(を)る女(をんな)はよく出来(でき)て居(ゐ)た。黒田清輝氏(し)の(鉛筆画(えんぴつぐわ))湖は人物(じんぶつ)の輪廓(りんくわく)が確(たし)かなる為(た)め味深(あじわいふか)く覚(おぼ)へ(水彩(すゐさい))の海、河、(色鉛筆画(いろえんぴつぐわ))の山海夫(そ)れ夫(ぞ)れ風趣掬(ふうしゆきく)すべしであッた。岡田三郎助氏(し)のパステル三枚共(まいとも)によく、着色銅板画(ちやくしよくどうばんぐわ)、メダイヨン等悉(とうみ)な氏(し)の自作(じさく)とはご器用(きよう)なこと。中丸精十郎氏(し)のモザイク、バプチズマと花は面白(おもしろ)い、追々我芸術界(おいおいわがげいじゆつくわい)に之(こ)れが嗜好(しかう)を有(も)たせたく思(おも)ふ。中沢弘光氏(し)は油画(あぶらゑ)よりは水彩(すゐさい)の方(はふ)に於(おい)て成効(せいかう)して居(ゐ)る、夏の日盛り、夏草、夏の宵、糸操等夫々面白(とうそれぞれおもしろ)いスケッチの中(うち)で耳(みゝ)の垢(あか)を取(と)ッて居(ゐ)る一(ひ)と塊(かたま)りは可(よ)かッた。藤島武二氏(し)の版画(はんが)は雑誌(ざつし)の挿図等(さしづとう)にて既(すで)に定評(ていへう)あるが(三六五)高瀬川筋、大久保躑躅園、ビーヤホール(三六七)の居酒屋など妙(めう)であッた磯野吉雄氏(し)の(デツサン)李鴻章と佐藤総監は図(づ)の組立(くみたて)が絵草子染(ゑざうしゞ)みて居(ゐ)て面白(おもしろ)くない、総監(そうかん)の顔(かほ)は何(なん)の意味(いみ)をも語(かた)つて居(ゐ)ない。山下新太郎氏(し)の処女形(かたち)と色(いろ)の配合(はいがふ)もよく上出来(ぜうでき)であッた足(あし)の方(はう)は衣物(きもの)ばかりで足(あし)がはいッて居(ゐ)ないやうだ。郡司卯之助氏(し)の金魚屋は大(おほ)きい計(ばか)りで全体(ぜんたい)に活動(くわつどう)の色(いろ)なく、金魚屋(きんぎよや)の顔(かほ)は顎(あご)なきが如(ごと)く、傍(そば)の立(た)ッて居(ゐ)る女(をんな)の帯(おび)より下(した)は張子(はりこ)の石燈篭(いしどうろう)であッた、@◎参考品(さんかうひん)の中(うち)ではコランの肖像、強(つよ)き絵(ゑ)の具(ぐ)にて人物(じんぶつ)の白(しろ)きと後(うし)ろの樹陰(こかげ)の翠(みど)りとの反映面白(はんえいおもしろ)く感(かん)ぜられた、其楽と詩との二画(ぐわ)は淡々筆(たんたんひつ)を着(つ)けたる裡(うち)に恍(くわう)として琴音(きんいん)に触(ふ)るゝの妙(めう)がある(牛門生)(完)

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