| ◎此処（こゝ）で次（つぎ）の一と画（しき）りに入（い）る前（まへ）に、向（むか）ふ側（がは）の湯浅一郎氏（し）の画（ゑ）を見（み）たから順（じゆん）に拘（かゝ）はらず評（へう）しよう、同氏（どうし）は中々研究家（なかなかけんきふか）のことゝて人物（じんぶつ）も裸体（らたい）を二三度出（どだ）したが、何（ど）ふも感服（かんぷく）しなかッた、其反対（そのはんたい）に風景（ふうけい）は追々面白（おひおひおもしろ）くなッて来（き）たところを、今年（ことし）は色（いろ）の研究夫（けんきうそ）れ夫（ぞ）れに見（み）へて十数点（すうてん）の作（さく）はいづれも捨（す）て難（がた）い所（ところ）がある、日の出、漁舟、高芝、落陽、城山、午後の溜池など黄色（きいろ）を巧（たく）みに用（もち）ひて誠（まこと）に味（あぢわひ）のある作（さく）を出（だ）された、葵橋の雨も雨中（うちう）の景情充分（けいぜうじうぶん）に現（あら）はれ、色（いろ）も紅（くれない）を一二ケ所（しよ）に点（てん）じて全幅（ぜんぷく）に生采（せいさい）を与（あた）へて居（を）るが、其中馬（そのうちうま）の前（まへ）に徃（ゆ）くのは一体何物（たいなにもの）だか少（すこ）しも分（わか）らない、漁舟は海（うみ）の黄（き）なる、船（ふね）の影（かげ）の青（あお）きなど面白（おもしろ）く、調子（てうし）も整（とゝの）ッて居（ゐ）る、磯は海（うみ）の色（いろ）、磯（いそ）の影（かげ）など共（とも）につよき色（いろ）を使（つか）ひ磯（いそ）の画（か）き方（かた）も筆強（ふでつよ）くしてよかッた（三〇二）の岩（いは）の間（あひだ）の波（なみ）（三〇六）の前景（ぜんけい）の浪（なみ）は、いづれも終（つひ）に浪（なみ）たることを判（はん）じ得（え）なかッた、海士は佳作（かさく）たるを失（うしな）はないが、海士の右足（みぎあし）は左（ひだ）りの方（はう）から出（で）て居（ゐ）るやうだ、（三一二）の疊島は両岸（れうがん）の間（あひだ）の漣（さゞなみ）がよく写（うつ）せて居（ゐ）た、燈下読書も題意（だいゝ）がよく表（あら）はれて居（ゐ）た、＠◎丹羽林平氏（し）の五枚中（まいちう）では紅葉が先（ま）づ出来（でき）た方（はう）か、朝の海など一向（かふ）に趣味（しゆみ）を感（かん）じない＠◎中村勝次郎氏（し）のは何（ど）れも何（ど）れも生々（なまなま）しい色（いろ）で感服（かんぷく）しない、夕暮の如（ごと）き絵（ゑ）の具計（ぐばか）り大層要（たいそうい）ッた事（こと）だろうと惜（おし）く思（おも）はれた、洗ひ場は比較的（ひかくてき）に好（よ）い、図（づ）も一寸面白（ちよつとおもしろ）い、＠◎安藤仲太郎氏（し）の夕陽、夕日（ゆうひ）を帯（お）びた雲（くも）はお得意（とくい）とでも申（まを）すべきか毎度見（まいどみ）るやうだ、汀（みぎは）の水（みづ）を少（すこ）し離れて■になッた処（ところ）は汀（みぎは）の水（みづ）よりも高（たか）く見（み）へ、■■でもあるやうに感（かん）ぜられた、山（やま）は最（も）ほ少（すこ）し筆（ふで）にシッカリした所（ところ）が欲（ほ）しかッた、御殿場、幽静は一ト通（とほ）り好（よ）いが、何分（なにぶん）にも筆（ふで）が弱（よは）く味（あじわい）も薄（うす）かッたは残念（ざんねん）であつた、＠◎藤島武二氏（し）は近頃装飾画（ちかごろそうしよくゞわ）に指（ゆび）を染（そ）めて以来此種（いらいこのしゆ）の作（さく）に掛（か）けては多少会得（たせうゑとく）する所（ところ）ある様（やう）に見（み）へる、天平時代の面影は半隻（はんせき）の屏風物（べうぶもの）にて未成稿（みせいかう）とのことなるが総体（そうたい）に好（よ）く出来（でき）て居（ゐ）る、顔（かほ）も自（おの）づと當代（たうだい）の相（さう）らしく全体（ぜんたい）の線（せん）もデコラチーブの上乗（じやうじやう）に徃（ゆ）き、立琴（たてごと）の縁（ふち）など物質（ぶつしつ）の説明（せつめい）も行届（ゆきとゞ）いて居（ゐ）る、後（うし）ろは金地（きんぢ）といふ好（この）みにて之（これ）に対（たい）すれば多少崇高（たせうすうかう）の感（かん）じがするのはお手際（てぎは）であッた、向（むか）つて左（ひだ）りの襟（えり）が確（しつ）かりして居（ゐ）ないので体（からだ）からのべつに見（み）へる嫌（きらひ）があるとおもふ、小品（せうひん）の中（なか）では雨後が一寸大（ちよつとおほ）きけれど特（とく）に雨後（うご）といふ感（かん）じはしない、夕映は一寸（ちよつと）よく思（おも）はれた（牛門生）
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