| 岡田（をかだ）三郎助筆（らうすけふで）『読書（どくしよ）』『少婦（せうふ）』『盛夏（せいか）』『初夏（しよか）』総（すべ）て裸体画（らたいぐわ）四点（てん）、皆是（こ）れ巧（たく）みに軽妙（けいめう）なるコランの筆致（ひつち）を得（え）たるもの、就中殊（なかんづくこと）に『読書（どくしよ）』と『少婦（せうふ）』を推（お）す、共（とも）に色彩極（しきさいきは）めて穏和（おんわ）にして軽快（けいくわい）なる蓋（けだ）し裸体（らたい）の上乗（じやうじやう）なる可（べ）し、『盛夏（せいか）』は其趣（そのおもむき）を写（うつ）し得（え）たるも余（あま）り弱（よわ）きに過（す）ぎ、『初夏（しよか）』は野花（やくわ）の麗（うる）はしきに対（たい）し少（すこ）しく其体容（そのたいよう）に欠くるやの嫌（きらひ）あるを惜（を）しむ、然（しか）も是等凡（これらすべ）て此会（このくわい）の呼物（よびもの）として、優（いう）に推奨（すいしやう）の価値（かち）あるを信（しん）ず△『パリの郊外（かうぐわい）』風景画数点孰（ふうけいぐわすうてんいづ）れも佳（よ）く、殊（こと）に目立（めだ）ちて覚（おぼ）えしは、此（この）パリの郊外（かうぐわい）の雨後（うご）の夜景（やけい）と見（み）えて、地面（ぢめん）の濕（うるほ）へる趣光（おもむきひかり）の色（いろ）の宛（さな）がら実際（じつさい）の如（ごと）き中々面白（なかなかおもしろ）し△フオンテーヌ、ド、チヤーヌ パステルの洒落（しやらく）なる風景画（ふうけいぐわ）にして、樹木（じゆもく）の筆意空（ひついそら）の色共（いろとも）に頗（すこぶ）る妙味（めうみ）あり、只（た）だ何（なん）となく水上（すゐじやう）に落（お）ちたる影（かげ）の黄色（わうしよく）なるが、余（あま）り重（おも）く強過（つよす）ぎたるやに覚（おぼ）ゆ△黒田清輝筆油絵小品（くろだきよてるふであぶらゑせうひん）六点（てん） 海（うみ）四点（てん）、花（はな）、林皆（はやしみなせうひん）としては面白（おもしろ）きも、畢竟是（ひつきやうこ）れ責（せめ）を塞（ふさ）ぐ為（ため）のみならん、黒田氏（くろだし）の作品（さくひん）として評（ひやう）するほどの者（もの）にあらず『雪（ゆき）』兎（と）に角黒田氏今回出品中比較的大（かくくろだしこんくわいしゆつぴんちうひかくてきだい）なるものなるが描法甚（べうはふはなは）だ粗雑（そざつ）にして素人評者（しろとひやうしや）の眼（め）には殆（ほとん）ど其妙処（そのめうしよ）を見出（みいだ）し得（え）ず只（た）だ手前（てまへ）の樹木（じゆもく）の棒（ぼう）を突（つ）きさしたる様（やう）なるが気（き）になりたり△山本芳翠筆（やまもとほうすいふで）『肖像（せうざう）』 不相替厭味（あひかはらずいやみ）な画風（ぐわふう）なり△中沢弘光筆（なかざわひろみつふで）『箱根（はこね）の山駕篭（やまかご）』 氏（し）が写実（しやじつ）に於（お）ける技量（ぎりやう）は近来著（きんらいいちじる）しく進歩（しんぽ）の傾向見（けいかうみ）えて此画（このぐわ）の如（ごと）き又其（またその）一班（ぱん）を窺（うかゞ）ふに足（た）る、只（たゞ）コムポジシヨンに於（おい）て甚敷不自然（はなはだしくふしぜん）の跡見（あとみ）ゆるは畢竟遠近法（ひつきやうえんきんはふ）を誤（あやま）れるが為（ため）なる可（べ）し△磯野吉雄筆（いそのよしをふで）『習作人物（しふさくじんぶつ）』 其陰影（そのいんえい）の汚（きたな）く重（おも）きに過（す）ぎ痩（や）せて骨立（ほねた）ちたる体格（たいかく）の醜（しう）なる一見只曲線美（けんたゞきよくせんび）は斯（かく）の如（ごと）き者（もの）なるかを疑（うたが）はしむるなり△『李鴻章（りこうしやう）と佐藤総監（さとうそうかん）』 更（さら）にデツサンの研究（けんきう）を要（えう）するものあらん△湯浅一郎筆（ゆあさいちろうふで）『海士（あま）』 房州根本海岸附近（ぼうしうねもとかいがんふきん）の景（けい）ならんが今少（いますこ）しく面白（おもしろ）く描（ゑが）くを得（え）ざりしものか、一見男女（けんなんによ）の別（べつ）を知（し）る能（あた）はず、海士（あま）の色黒（いろくろ）しといへどもかゝる色（いろ）にては之（これ）を感心（かんしん）するを得（え）ず、但（たゞ）し他（た）の小品（せうひん）には中々面白（なかなかおもしろ）きものあり
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