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白馬会関係新聞記事 第7回白馬会展

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上野の各展覧会 白馬会(四)
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| 国民新聞 | 1902(明治35)/10/04 | 4頁 | 展評 |
岡田三郎助氏(し)の裸体画(らたいぐわ)は総(そう)じて四葉(えう)あり内(うち)一面(めん)は暁(あかつき)なるべきか壁(かべ)は未(いま)だ微闇(ほのくら)うして垂(た)れたる窓掛(まどかけ)のみ紅(あか)し少婦(せうふ)あり寝台(ねだい)に腰(こし)かけて身(み)に衣(きぬ)を纏(まと)はず左脚(さきやく)は垂(た)れ右脚(うきやく)は折(お)りて専念読書(せんねんどくしよ)に耽(ふけ)る去年黒田氏(きよねんくろだし)の裸体画出(らたいぐわい)でし時當局者(ときたうきよくしや)は其(そ)の腰部(えうぶ)を黒布(くろぬの)にて蔽(おほ)はしめて白馬会(はくばくわい)の名(な)一時(じ)に都鄙(とひ)に知(し)れ渡(わた)りしが本年(ほんねん)は其(そ)の事(こと)あらず絵(ゑ)はいづこまでも絵(ゑ)たらしめよ芸術(げいじゆつ)はいづこまでも芸術(げいじゆつ)たらしめよ此画(このゑ)を兎角(とかう)の評議(へうぎ)せんは偶(たまた)ま其(そ)の評議者(へうぎしや)の潔(いさぎよ)からざるを暴露(ばくろ)すと言(い)はんは中(あた)らぜれども画其物(ぐわそのもの)は強(あなが)ち咎(とが)むべきにもあらざるべし他(た)の三箇亦(こま)た同(おな)じ一は下半身(かはんしん)を覆(おほ)ひたる横向(よこむ)きの少女(せうぢよ)二は極(きわ)めて漠然(ばくぜん)と描(ゑが)きたる立姿(たちすがた)三は春(はる)の野(の)の緑(みどり)なる森(もり)の間(あひだ)に咲(さ)き出(い)でし草花(くさはな)を摘(つ)まんとして今(いま)しも赤裸(せきら)の婦人饒脂玉(ふじんげうしたま)の如(ごと)き其背(そのせな)を此方(こなた)に左手(さしゆ)を差延(さしの)べたるなり萬緑(まんりよく)の中(うち)に花(はな)は咲(さ)きたり此間(このあひだ)に天女(てんによ)の下(くだ)りしかと見(み)んは余(あま)りに賛辞(さんじ)に過(す)ぐべく理想画(りさうぐわ)とせんには其姿神々(そのすがたかうがう)しからず仮初(かりそめ)のすさびの端(はし)なき副景(ふくけい)を春(はる)の野(の)に取(と)りしか@山下新太郎氏(し)の『幼女(えうぢよ)』蓮池(はすいけ)に臨(のぞ)みて其花(そのはな)一つ折(お)らなんとする少女(せうぢよ)を描(えが)きたり花(はな)の美(うつく)しきに見入(みい)りてこゝもとよりかと考(かんが)ふるが如(ごと)き眼元殊(めもとこと)によし相向(あひむか)つて懸(か)けられたる某(ぼう)の筆(ふで)になりし花折(はなお)る少女(せうぢよ)とは数段(すうだん)の上(うへ)に在(あ)り@安藤仲太郎氏(し)の『渚(みぎわ)』極(きわ)めて明瞭(めいれう)なり今(い)ま仏国(ふつこく)に盛(さかん)なりと聞(き)く描法(びやうはふ)にて色(いろ)を用(もち)ゆる複雑(ふくざつ)ならず丘(おか)二つ沖(おき)に舟(ふね)二つ松原(まつばら)つゞきに引上(ひきあ)げたる漁船数艘(ぎよせんすうさう)は瞥視(べつし)すれば僅(わづか)に四色(しよく)よりなりしかとまがうばかり渚(みぎわ)を洗(あら)ふ波脚(なみあし)の際立(きわだ)ちたるなど中々(なかなか)に思切(おもひき)りたり雑誌(ざつし)『新小説(しんせうせつ)』の口絵(くちゑ)を見(み)たる人(ひと)は直(たゞち)にうなづくなるべし此種(このしゆ)は総(そう)じて淡色(たんしよく)を尊(たつと)べども左(さ)りとて明(あか)るきにはあらず線(せん)を明(あきらか)に用(もち)ゆるところに異彩(いさい)あるなり

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