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△大束昌司筆『秋（あき）の暮（くれ）』 調子（てうし）が能く整（とゝの）うて居る。秋暮（しうぼ）といふ趣（おもむき）も現（あら）はれて、黄（き）ばめる稲の色、処々（ところどころ）にある雑草（ざつさう）の枯れた色合（いろあひ）など、今暮れやうとする自然（しぜん）の風物（ふうぶつ）を写し得て、四辺（あたり）にそよそよと物寂（ものさび）しき秋風（あきかぜ）が、吹いて居るかのやうに思（おも）はれる。慾（よく）には最（も）う少しくさつくりと、軽（かる）く遣（や）つて欲（ほ）しかつた。同氏の作（さく）としては、先ず無難（ぶなん）の出来であらう。その外二三の小品（せうひん）もあつたが、この画に比（ひ）すれば、遥（はる）かに劣（をと）つてをる＠△中沢弘光筆『富士（ふじ）』 小松林（こまつばやし）の中から見たる富士（ふじ）。ちよつと思付（おもひつき）の位置（ゐち）で、変つた所がある。色の工合（ぐあひ）も活々（いきいき）として居るし、筆の遣振（つかひぶり）にも快濶（くわいくわつ）の趣が見えて、心持（こゝろもち）が善い。佳作（かさく）の中に算（かぞ）へて置かう＠△同氏筆『村路（むらみち）』 之れも前の画と同じ筆法（ひつはふ）で中景（ちうけい）の稲叢（いなむら）の辺から、樹木の模様（もやう）など、先づは注意（ちうい）が届（とゞ）いて居るといつて善い。遠景（ゑんけい）の山も垢抜（あかぬ）けのした暖（あたゝ）かな表現（へうげん）は、確かに認（みと）められる。今一ツは、一方から自然（しぜん）の光（ひかり）を受けて居る所へ、燐寸（まつち）を摺つて、煙草（たばこ）を喫（す）はうとする光線の反映（はんえい）を現はせるもの、是れにも苦心（くしん）の跡（あと）が見えて居る。両方の光（ひかり）が顔へ當（あた）つて居るといふむづかしい色が、熱心（ねつしん）に選ばれて居つて、用意周到（よういしうたう）。但し少（すこ）しく火の影（かげ）が、何（ど）うかといふものもあつた＠△森川松之助筆『根岸田圃（ねぎしたんぼ）の夕暮（ゆふぐれ）』 将（まさ）に暮れやうとする、根岸田圃（ねぎしたんぼ）の夕景色。模写（もしや）し得たりといふべきか。色合（いろあひ）の薄闇（うすぐら）き工合、前の地面（ちめん）なども、共（とも）におもしろい＠△宇和川通喩筆『緑林（りよくりん）』 同氏の出品の中では先づ是れを取（と）る。新緑（しんりよく）の暑（あ）つさうな思（おも）ひが、浮（うか）ばれて善し。色の変化（へんくわ）といふ点には、未（いま）だしき所があるらしい＠△磯野吉雄筆『女学生（ぢよがくせい）の奏楽（そうがく）』 画材（ぐわざい）の上からいへば、勿論悪（もちろんわる）くもないが、この画などに対（たい）しては、お世辞（せじ）にも感服（かんぷく）といふ言葉は下されない。デツサンとか、組合（くみあは）せとか、割合（わりあひ）とか位置とか、総（すべ）てに付いて頗る曖昧（あいまい）。夫れに肝腎（かんじん）の人物が、皆ミイラめきて居る。腰（こし）を掛（か）けて居る方は、骨許（ほねばか）りで肉（にく）があるやうには見えない。立（た）つて居る方も、写真屋（しやしんや）の遣（つか）ふ鉄の突支棒（つゝかへばう）で、押付（おしつ）けて居るかのやうで、余りに堅過（かたす）ぎはせぬか。袴（はかま）や窓掛（まどかけ）の色の紫なのも、嫌味（いやみ）の極（きよく）である。光線は背後（うしろ）からであらうが、更に要領（えうりやう）を得ない。失敗（しつぱい）の作であると、断言（だんげん）するに憚（はゞか）らない。この外景色画（けしきぐわ）の小品（せうひん）が、二三面（めん）あつたが、田圃の秋色（しうしよく）を描（ゑが）いたものなどは、上作（じやうさく）である |
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