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先（ま）づ場内（ぜうない）を一と渡（わた）り過（す）ぎて見（み）て感（かん）じたのは是（こ）れといふひどい拙作（せつさく）……屑（くづ）がないことだ慥（たし）かに昨年（さくねん）のお手際（てぎわ）より総体（そうたい）に進歩（しんぽ）を表（あら）はして居（ゐ）る何紙（どこ）だかの新聞（しんぶん）では大作（たいさく）がなくツて前回（ぜんくわい）より見劣（みおと）りがするとか妙（めう）な理屈（りくつ）を書（か）いたが近年（きんねん）そんじよ其処等（そこら）の宗徒（むねと）の面々（めんめん）が大物（おほもの）を書（か）き出（だ）したので唯（た）だ其技倆（そのぎれう）に拘（かゝ）はらず出品（しゆつぴん）の面積（めんせき）が大（おほ）きくさへあれば悦（よろこ）ぶ癖（くせ）があるには困（こま）る唯（た）だ面積（めんせき）の大（おほ）きい計（ばか）りの者（もの）が沢山（たくさん）だからとて一向貴（かうたつと）くはない展覧会（てんらんくわい）は人（ひと）の眼（め）を惹（ひ）く商売主義（せうばいしゆぎ）の者（もの）と違（ちが）ひ一の競技会（けうぎかい）であれば小粒者（こつぶもの）なればとて其技倆（そのぎれう）の優（すぐ）れたるが多（おほ）ければ即（すなは）ち或（あ）る技術（ぎじゆつ）の展覧会（てんらんくわい）として成効（せいかう）して居（ゐ）るのである一寸（ちよつと）したことだが社会（しやくわい）の対美術眼（たいびじゆつがん）の発達（はつたつ）に関係（くわんけい）するから斯（かゝ）る小言（こゞと）も必要（ひつえう）だとおもふ＠先日（せんじつ）の鑑査会（かんさくわい）で採定（さいてい）せられた作品（さくひん）を重（お）もに漫評（まんへう）しよう磯野吉雄氏の「たそがれの萩（はぎ）」一寸好画題（ちよいとこうぐわだい）であるが既（すで）に沈（しづ）みたる所（ところ）の空（そら）の工合（ぐあい）が第（だい）一に佳（よ）い萩（はぎ）の薄暗（うすぐら）いので充分誰彼（じうぶんたそかれ）の心（こゝろ）も見（み）へるが遠近（ゑんきん）が何（ど）ふであろうか萩（はぎ）と門（もん）との距離（きより）に合（あは）しては門（もん）が少（すこ）し小（ちい）さ過（す）ぎる様（やう）だ門袖（もんそで）の土塀（どべい）も附（つ）き方（かた）が一寸確（ちよいとたしか）でない＠北蓮蔵氏の「遺児（みなしご）」と白瀧氏（しらたきし）の「蓄音器（ちくおんき）」は会場中（くわいぜうちう）での大作（たいさく）だが何（いづ）れも作家（さくか）の経営惨憺（けいえいさんたん）を見（み）るに足者（たるもの）である「遺児（みなしご）」は遠景（えんけい）の森（もり）や空（そら）の工合（ぐあい）もよく人物（じんぶつ）は僧（そう）の衣服（いふく）などよく出来（でき）て居（ゐ）るが其（その）アナトミーに於（おい）て甚（はなは）だ欠（か）けて居（ゐ）る僧（そう）の左足（さあし）は足（あし）の先（さ）き丈（だ）けが衣（ころも）に附（つ）いて居（ゐ）る様（やう）で膝（ひざ）の部（ぶ）が全（まつた）く説明（せつめい）されて居（ゐ）ない童児（だうじ）の足（あし）も同（おなじ）く膝無（ひざな）しで又足（またあし）の揚（あ）げ方（かた）が大抵同（たいていおな）じで葬式（さうしき）の訓練（くんれん）と云ふ気色（けしき）がある此等（これら）デツサンに就（つい）ては前回（ぜんくわい）にも批評（ひへう）が有（あ）つたに其侭（そのまゝ）は少々不親切（せうせうふしんせつ）ジャろうぞ、後（うし）ろの二人（ふたり）の男（をとこ）は前（まへ）に割合（わりあ）はして総体（そうたい）に小（ちい）さ過（す）ぎるは一寸気（ちよいとき）に掛（かゝ）る扨て此画（このぐわ）に就（つい）ては茲（こゝ）に大議論（だいぎろん）がある読画社会（どくゞわしやくわい）の多数（たすう）は如何（いか）に見給（みたま）ふか知（し）らぬが此遺児（このみなしご）の未（いま）だ頑是（ぐわんぜ）なかるべき小児（せうに）の方（はう）に少（すこ）しも無邪気（むじやき）な所（ところ）がない菓物（くだもの）を手（て）に持（も）ツて居（ゐ）ても其顔（そのかほ）に表（あら）はせる情（ぜう）は矢張棺桶（やはりくわんおけ）に在（あ）るかの如（ごと）く憂（うれひ）の顔（かほ）である此画（このぐわ）は悲（うれひ）が主（しゆ）であろうが其表情（そのへうぜう）の方法（はうはふ）を得（え）て居（ゐ）ない景色人物（けいしよくじんぶつ）一として悲調（ひてう）を帯（お）び■るはなく一転茲（てんここ）■変化（へんくわ）の妙（めう）を見（み）せ反映（コントラスト）に依（よ）りて悲哀（ひあい）の情（ぜう）を観者（くわんじや）に感（かん）ぜしむるといふ妙（めう）が無（な）いは余（あま）り正直過（せうじきす）ぎた画方（かきかた）である此頑是（このぐわんぜ）なき小児（せうに）に此悲（このかなしみ）の中（なか）で一点無邪気（てんむじやき）な所（ところ）があツて始（はじ）めて相反映（あひはんえい）し観者（くわんじや）に思（おも）はずホロリと来（く）る妙機（めうき）を逸（いつ）したは惜（お）しいことであつた此種（このしゆ）の画（ぐわ）を作（つく）るには別（わ）けて此反映（このはんえい）が肝心（かんじん）であるのだ小林萬吾氏の「魚貰（さかなもら）ひ」是（これ）も好画題（こうぐわだい）ではあるが人物（じんぶつ）が何（いづ）れも活動（くわつどう）を欠（か）いて居（ゐ）る小品（せうひん）ながら「漁浦晩景（ぎよほのばんけい）」「夕（ゆふべ）の森（もり）」などは採定（さいてい）せられた丈（だ）け好（い）い、前者（ぜんしや）は森（もり）と空（そら）の色（いろ）がよく晩景（ばんけい）の情（ぜう）も充分（ぢうぶん）である後者（こうしや）は森（もり）の説明（せつめい）が唯（た）だ充分（ぢうぶん）に徃（ゆ）つて居（い）ない小代為重氏（し）の中（なか）では「女（をんな）の肖像（せうぞう）」が一寸目（ちよつとめ）に附（つ）いた顔（かほ）や髪（かみ）の毛（け）など中々（なかなか）うまいが後（うし）ろの竹垣（たけがき）が少（すこ）し眼（め）に障（さわ）りて肖像（せうぞう）の邪魔（じやま）になるやうである |
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