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△佐野昭作『熊本紀念像（くまもときねんぞう）の元型（げんけい）』 今度は彫刻（てうこく）の出品はこの元型許（げんけいばか）りで少しく淋（さび）しい感（かん）じがするが、その代（かは）り等身大（とうしんだい）のものを場内中央（ちうおう）に体裁善（ていさいよ）く飾（かざ）り付けたのだから大に見栄（みば）えがした、図（づ）は正面（しゃうめん）に歩兵の聯隊旗手（れんたいきしゆ）、その左右（さいう）に騎兵（きへい）と砲兵（ほうへい）の卒（そつ）を組合せたもので大体（だいたい）の考案（かうあん）は評者も至極賛成（しごくさんせい）だ、けれども人物（じんぶつ）の組合（くみあは）せに付いては何（ど）うも感服（かんぷく）し難い、成程（なるほど）三人とも徒歩（とほ）であるから銘々（めいめい）同じやうに突立（つゝた）ツては第一身長（しんちやう）が揃（そろ）ツて目障（めざは）りだと云ふので斯（か）くは運動（うんどう）させたのであらう、作者（さくしや）の側（がは）から云へば一通（ひととほ）り尤（もつと）もの話だが図（づ）の如く互いに異（こと）なる方向（はうかう）を睨（にら）むで居ては一体（たい）この図は何（なん）の状（さま）であるか、大抵（たいてい）の人はその意味（いみ）を知るに苦しまなければ成（な）らない、そこで評者（ひやうしゃ）の想像（さうぞう）に拠れば壊（こわ）れた砲車（はうしや）などの散乱（さんらん）して居るところに歩兵の聯隊旗手（れんたいきしゆ）が旗（はた）を捧（ささ）げて前方を睨（にら）むで居る工合（ぐあひ）からいふと先（ま）づ敵（てき）の堡壘（ほるい）を占領（せんりやう）した場合とも見受（みう）けられる、併（しか）し左右の両卒（りやうそつ）がおのおの反対（はんたい）の方角（はうがく）を睨（に）らむで居るから全然（まるまる）さうとも定（き）められない、或は三人とも通例（つうれい）の姿勢（しせい）であツたならば既（すで）に占領（せんりやう）した後の休憩（きうけい）とも見られるだらう、併（しか）し左右の両卒（りやうそつ）があの通（とほ）り全身を非常（ひじやう）に働（はたら）かせて居ては夫（そ）れも當（あた）らない、何（ど）うしても図柄（づがら）で見れば或（あ）る有力（いうりよく）なる目的物（もくてきぶつ）を睨らむで居る所とよりは受取（うけと）れないが、扨三人とも同（どう）一地点（ちてん）にあツて三方に目的物（もくてきぶつ）が同時に現（あら）はれ銘々手分（めいめいてわ）けしてそれを見（み）て居り、夫れも極（きは）めて瞬間（しゆんかん）の場合（ばあい）であるとするときは迚（とて）も自然（しぜん）にあり得られる状（さま）とは言ひ難（がた）い、よしやこの三人は互に兵種（へいしゆ）が異（こと）なるに従（したが）ひ平生（へいせい）の任務（にんむ）も違（ちが）ツて斯る咄嗟（とつさ）の場合にもその任務々々（にんむにんむ）に注意（ちうい）した状（さま）だといふとも自然（しぜん）は決（けつ）してさう旨（うま）い工合（ぐあひ）に行くものではない、結局評者等（つまりひやうしやら）にはこの図（づ）は何の有様（ありさま）であるかといふことが十分呑込（ぶんのみこ）めないのだ、夫れから後背（うしろ）へ廻（まは）ツて見ると両卒（りやうそつ）の後（あと）に引いた足と砲具（はうぐ）などの混雑（こんざつ）して居るのは如何（いか）にも目障（めざは）りだ、殊（こと）に三人とも打揃（うちそろ）ツて顔好（かほよ）く拵（こしら）へあげられたのも面白（おもしろ）くないと思ふ、一体作者（たいさくしや）の考を察（さつ）するに前にいふた三人の向（む）きを異（こと）にして居るのは何方（どちら）にも正面（しやうめん）が見えるやうにと云ふ工夫（くふう）かも知れぬ、併（しか）しさうすると前方（ぜんぽう）より見るとして騎兵（きへい）の向きはまづ我慢（がまん）も出来るが砲兵（はうへい）は何（ど）うも旗手（きしゆ）の姿勢（しせい）を損害（そんがい）して居るやうに見える、夫れから又左から見（み）ても右から見（み）ても折角旗手（せつかくきしゆ）が心を篭（こ）めて睨（にら）むで居るのを其後に後向（うしろむ）きの兵士が居てはその甲斐（かひ）もないかと思ふ、此処（ここ）は何とか一方に集めて正面（しやうめん）には正面の趣味（しゆみ）あり側面（そくめん）には側面の趣味（しゆみ）ありと云ふやうにして貰（もら）ひたかツた、また物質表現（ぶつしつへうげん）の法（はう）に付いても少（すこ）しく思附（おもひつ）いたところがあるが此元型（このげんけい）は一度鋳造（ちうぞう）に用ひたものを修理（しゆり）して出（だ）したのだと聞くから其辺（そのへん）は深（ふか）く言はない、要（えう）するに欠点（けつてん）を遠慮（えんりよ）なく云へば右の通（とほ）りで就中組立（くみたて）の不調和（ふてうわ）なることは到底免（たうていまぬ）かれないかと思ふ、けれども斯（かか）る大物（おほもの）をこの位に仕上（しあ）げた作者の苦心（くしん）は実に感服（かんぷく）の外はない、これで作者の手腕（しゆわん）がなみなみならぬことも大抵（たいてい）は知（し）るに足るのだ＠以上、目星（めぽし）いものは大概評（たいがいひやう）し終ツたから筆（ふで）を擱（さしお）く、この外に絵画（くわいぐわ）には白耳義人（ベルジアじん）ヰツマン夫妻（ふさい）の作が数面（すうめん）あるがこれは外国人（ぐわいこくじん）の画でもあるし、また余（あま）り長くなるから止（や）めにした、大体（だいたい）から云へば今茲（ことし）の展覧会（てんらんくわい）は例年に比（ひ）して立勝（たちまさ）ツて居るとは言へない、白馬会（はくばくわい）は洋画界（ようぐわかい）に最も望みを属（ぞく）されて居るのだから来秋（らいしう）は今回にも増（ま）して盛大（せいだい）にありたいと評者（ひやうしや）は念（ねん）じて置くのだ（完） |
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