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△白瀧幾之助筆『蓄音器（ちくおんき）』 此人の従来（じうらい）の作品（さくひん）から見ると何様描（なにさまか）きさうなもので北氏の『遺児（ゐじ）』に亜（つ）ぐ入念（にうねん）の作だ、仕組（しくみ）からいふも可（か）なりの方で無邪気（むじやき）の意味（いみ）は大方表（あら）はれて居るらしい、併し悪（わる）い方の側（がは）をいふと画面（ぐわめん）が何となく薄（うす）ぺらに見えるのは惜（お）しいものだ、これも色彩（しきさい）の関係（くわんけい）からきた結果（けつくわ）であらうがその外にまた個々（こゝ）の位置（ゐち）が少しく窮屈（きうくつ）といふことも一ツの原因（げんいん）に相違（さうゐ）ない、ちよいと見て■（■）らないやうな感（かん）じの起るのは即ち位置（ゐち）の窮屈（きうくつ）なるが為めで、例（たと）へば下向（したむ）きになツて居る少女と隣りの人を窺（うかゞ）ふて居る少女とは十分その心持（こころもち）を表（あら）はして居るが、左の男の児（こ）が空（そら）を仰向（あをむ）いて居るやうなると起上（おきあが）ツて聞（き）いてゐる少女が苦笑（にがわら）ひをして他（ほか）の事でも考（かんが）へて居るやうなるとは何（ど）うも照応（つり）が宜（よろ）しくない、此処が欠点（けつてん）といへば欠点かと思ふのだ、また色（いろ）の方（はう）からいふも何となく淋（さび）しげなる情（じやう）が出（で）てゐるのは受取（うけと）れない、この画などは意義（いぎ）の上からして至極温（しごくあたた）かい方のものだから色（いろ）も十分その方に向（む）けて貰（もら）ひたいのだ、夫れから男の児（こ）の衣物（いもつ）の色が素人眼（しらうとめ）には紫へ脂色（やにいろ）でも打込（うちこ）むだやうに思はれて些（ち）と黒過（くろす）ぎはしないか、その所為（せい）かして他（た）の物が蹴推（けお）されて居るやうに見える、夫れから少女の顔（かほ）の色も孰（いづ）れも黄ばむだ青味（あをみ）が勝（かち）過ぎはしないか、北氏の『遺児（ゐじ）』の中にある人物（じんぶつ）の色と大差（たいさ）なしでは少しく釣合（つりあひ）が取れないかと思ふ、もう一ツ云へば庭（には）の樹などは何だか物足（ものた）らないやうで今一工夫（ひとくふう）して欲（ほ）しかツた、併（しか）しかう云つて仕舞（しま）へば一も二もない画のやうで酷過（こくす）ぎるけれども無論賞揚（むろんしようよう）すべき点も沢山（たくさん）あるのだ、第一この人が自分（じぶん）の学（まな）ぶところに飽（あ）くまで忠実（ちうじつ）なると夫れに相応しき勇気（ゆうき）のあるとは何時（いつ）も感服（かんぷく）するところで、会毎（くわいごと）に勉めて大作（たいさく）を出（い）ださるゝは評者（ひやうしや）なども斯道（このみち）の為めに謝（しや）さなければならないと思ふ、夫れからこの画なども運筆（うんぴつ）の点からいへば北氏の『遺児（ゐじ）』などよりは頗る正確（せいかく）なるもので、物質（ぶつしつ）の表現（へうげん）の法も比較的（ひかくてき）にはこツちの方（はう）が立越（たちこ）えて居ると云はなければならない＠△三宅克巳筆『水彩画（すいさいぐわ）』 この人の出品（しゆつぴん）は都合（つがう）四十余枚あつてその内鑑査（かんさ）に當（あた）ツたものが四枚ある、画題（ぐわだい）は一を『千曲川（ちくまがは）の初春（はつはる）』といひ二を『信州小諸附近（こもろふきん）の景（けい）』といひ三を『水に映（えい）ずる森（もり）』といひ四を『米国（べいこく）ニユーヘブンの秋（あき）』といふ、水彩画（すゐさいぐわ）として立つ人の作丈（さくだけ）あツて総ての調子（てうし）も完全（くわんぜん）したものが多い、中にも『ニユーヘブンの秋（あき）』と題（だい）するのは特に立優（たちまさ）ツて居るやうに見えた、去（さ）りながら海外（かいぐわい）にて作（つく）ツたものと近頃の作品（さくひん）とを比較（ひかく）すれば概（がい）して前の方が勝（すぐ）れて居るのは遺憾（ゐかん）と云はなければならぬ、併（しか）し何れも■味（■■み）といひ色といひ能く整（ととの）ふてゐて酷評（こくひやう）を受ける方（はう）のものではない、日本の水彩画（すゐさいが）として先づ立派なものだらう＠△山本森之助筆『柳塘』 これも前の鑑査会（かんさくわい）に出（だ）したものだが評者（ひやうしや）などには一向旨味（かうゝまみ）が分らない、同人筆『熱沙（ねつさ）の山』は得意（とくい）のものかは知らぬが画題（ぐわだい）を読（よ）むで初めて会得（ゑとく）した位で熱沙（ねつさ）といふ感じは覚束（おぼつか）ない、左の海（うみ）は後（あと）から無理に附合したものではないか、少しく地平線（ちへいせん）が低いと思ふは僻目（ひがめ）にや＠△岡田三郎助筆『肖像（せうぞう）』 此派の■■、仏国から態々寄越したものだらう、一寸と■■出来て居るが取立（とりた）て言ふ程（ほど）のものではない＠△藤嶋武二筆『蝦夷菊（ゑぞぎく）』 今度（こんど）はスケツチが十四五枚あるのみだが、花と題（だい）するこの画が一番善（ばんよ）い出来（でき）らしい＠△中村勝次郎筆『暮春（ぼしゆん）』 この人の作（さく）も今度は割合（わりあい）に善くない、暮春が鑑査（かんさ）に當（あた）ツたのは仕合せのことだ＠△黒田清輝筆『ナチユールモルト』 流石（さすが）にこの派の鎮袖、洋画界にピカピカと光ツて居る丈（だけ）あツて見事なものだ、比較をすれば静物画としての河村清雄氏をも凌がむとする出来栄えで迚（とて）もその他の人には真似（まね）も出来ない、若（も）し一二の思附（おもひつき）をいへば左の幕（まく）が稍堅（ややかた）さうに見えるのと右の彫刻（てうこく）物が今少し何（ど）うかありたいと思（おも）ふ丈（たけ）で、右の方から疎に出（で）てゐる棕櫚の葉（は）などは何とも言ひ知（し）らぬ旨味がある、無論場中（むろんじやうちゆう）第一の傑作（けつさく）、今更（いまさら）何でもござれといふ技境（ぎゝやう）の広いのが思ひ當（あた）ツて敬服（けいふく）の外はない、他の『外山氏肖像（せうぞう）』も肖像画として近頃稀（ちかごろまれ）に見るところの上作（じやうさく）であツた＠△中沢弘光筆『賎民（せんみん）』と『漁村（ぎよそん）の小春（こはる）』 二枚とも位置（ゐち）といひ色（いろ）といひ善い出来（でき）だが、賎民（せんみん）の方（はう）は少しくごた付いて居るやうだ、この人は近来（きんらい）大に進歩（しんぽ）した方（はう）でたのもしい |
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