| ロドルフ、ヰツマンの作（さく）ハ、月夜（げつや）の作（さく）を以（もつ）て優（いう）なりとすべく。湯浅一郎の漁家（ぎよか）の夫妻（ふさい）ハ、手腕（しゆわん）に一階（かい）の進歩（しんぽ）を見（み）る。山本幾之助の落葉掻（おちばかき）を称（しよう）するものあれど、小作雨中（せうさくうちう）の耕作（かうさく）こそ優（まさ）りたるべし。白瀧幾之助の路傍休憩（ろぼうきうけい）の樵夫（せうふ）ハ、九度山（どさん）に閑居（かんきよ）して本名（ほんみやう）を真田幸村（さなだゆきむら）とハ名乗（なの）らずや、気高（けだか）う且優（かつやさ）しくして、俳優（はいゆう）の斯（か）く扮（ふん）したるかに惑（まど）はしむ。中丸精十郎の少女枝（せうじよえだ）を折（を）る図（づ）ハ、十回未矣（くわいゝまだし）と叫（さけ）んで猶足（なほた）らず。北蓮城の田舎（ゐなか）の葬儀（さうぎ）ハ、再待侘（ふたゝびまちわ）びの肩（かた）を凝（こ）らさしめんとての業（わざ）か、今（いま）ハ左右言（とかくい）ふべきの秋（とき）ならねど、額縁（がくぶち）に白木（しらき）を用（もち）ひて、若（も）し意（い）を得（え）たりとしたらんにハ、精輝（せいき）が昔語（むかしがたり）の轍（てつ）に出（い）でんかを虞（おそ）る、仕上（しあげ）ハりうりうとならバ、慎（つゝし）むで大成（たいせい）の期（き）を待（ま）たん而已（のみ）。城勉一郎の釣魚（ちようぎよ）の図（づ）、水天髣髴（すゐてんほうふつ）とハ三十六峰先生（はうせんせい）が名句（めいく）に於（おい）て見（み）れど、其（そ）ハ遠（とほ）く水平線（すゐへいせん）を眺（なが）めたるの景（けい）なり、子（し）が描（えが）きたるハ激浪岩（げきらういは）を噛（か）んで白沫（はくまつ）を飛（と）ばし、白沫迸（はくまつほとばし）る処白雲低（ところはくうんひく）く垂（た）る、是（こゝ）に於（をい）てか何（いづ）れか雲（くも）、何（いづ）れか水（みづ）の別（べつ）あるを失（うしな）ひたり。水天髣髴（すゐてんほうふつ）にハあらで、水天混沌（すゐてんこんとん）たる常闇（とこやみ）の世（よ）とや子（し）の眼（め）にハ映（えい）じけん。ジユリヱツト、ヰツマンの芍薬園（しやくやくゑん）ハ、退（しりぞ）いて衣袂（いべい）に花香（くわかう）あるかを疑（うたが）ひ嗅（か）がしむるの妙（めう）あり。安藤仲太郎の吉野（よしの）の春（はる）、仙波沼（せんばぬま）の冬（ふゆ）と共（とも）に極（きは）めて平穏無事（へいをんぶじ）なり。久米桂一郎の残▲可（ざんくんか）ならざるにあらねど、農夫（のうふ）の方（かた）を推（お）して以（もつ）て、更（さら）に又満場（またまんじやう）の白眉（はくび）とせんとす矣（い）。＠既（すで）に白馬会（はくばくわい）と言（い）ひ、又白布（またしろぬの）を以（もつ）て満場（まんぢやう）を蔽（おほ）ふ故（ゆゑ）とにハあらねど、作物（さくぶつ）の彩色悉（さいしきことごと）く白（しろ）きに過（す）ぐるやの感（かん）あり。感（かん）あるにあらで果（はた）して白（しろ）かりしなりけり、抑（そもそも）も秋（あき）ハ白（はく）なりの意（い）に依（よつ）て然（しか）るか、或（あるひ）ハ其景（そのけい）に対（たい）して筆（ふで）を執（と）れる時（とき）、画神白帝（ぐわしんはくてい）と相牽（あひゝ）いて来（きた）りたるに依（よ）るか、為（ため）に場内寂寞又蕭条（じやうないせきばくまたせうでう）たるの現象（げんしやう）を呈（てい）して哀（あは）れなり。＠又言（またい）ふ此会（このくわい）ハ、鎌倉見聞録（かまくらけんもんろく）なり、東台繁昌記（とうだいはんじやうき）なり、田舎風俗画報（ゐなかふうぞくぐわほう）なり、満場皆然（まんじやうみなしか）りとハ言（い）はねど、多（おほ）きに従（したが）ふハ議会開設（ぎくわいかいせつ）より習慣（しふくわ）の一（ひと）つとなりたれバ。＠何故（なぜ）と言（い）はんに、波（なみ）あり岩（いは）あり砂（すな）あるの図（づ）とし言（い）へバ、脳裡（なうり）へ呼起（よびおこ）す景（けい）の、鎌倉（かまくら）、片瀬（かたせ）、鵠沼（くげぬま）に於（おい）て甞（かつ）て記憶（きおく）せるものなり、是（こ）れ鎌倉見聞録（かまくらけんもんろく）にあらずや。池（いけ）を画（ゑが）くや必（かな）らず蓮（れん）あり、然（しか）して皆不忍（みなしのばず）の池（いけ）なり、甚（はなはだ）しきに至（いた）つてハ、親切（しんせつ）にも同図（どうづ）二葉（えふ）を一人（じん）の手（て）に物（もの）したるもあり、是（こ）れ東台繁昌記（とうだいはんじやうき）にあらずや。人物（じんぶつ）ハ馬士（まご）、樵夫（せうふ）、漁夫（ぎよふ）、漁童（ぎよどう）、村翁（そんおう）、鄙女（ひぢよ）、然（しか）して其貴顕縉紳（そのきけんしんしん）に及びたるハ極めて希なり、是（こ）れ田舎風俗画報（ゐなかふうぞくぐわほう）にあらずや。何（なん）ぞ進（すす）んで実（じつ）を萬里（ばんり）の外（そと）に写（うつ）さゞる、何（なん）ぞ坐（ざ）して想（おもひ）を旻天（びんてん）の裡（うち）に練（ね）らざる。 |
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