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会員（くわいゐん）の作品（さくひん）にして此他尚見（このたなほみ）るべきもの多々益々多（たゝますますおほ）しと雖（いへど）も、兎角（とかく）に倦厭（けんえん）し易（やす）き今日此頃（けふこのごろ）の人心（ひとこゝろ）、余輩（よはい）ハ忍（しの）んで作家（さくか）に対（たい）するの禮（れい）を欠（か）き、茲に二三外人の出品を妄評して、更に美術協会秋季展覧会に筆を轉ぜん。＠ラフアエル、コラン作婦人（さくふじん）＠大牢（たいろう）の味（あぢ）ハ藜■（れいかく）と自（おのづか）ら別（べつ）あり。一世（せい）の名手（めいしゆ）の筆（ふで）に成（な）りたるもの、之（これ）を他（た）の瑣々屑々（さゝせつせつ）の輩（はい）の作（さく）に比（くら）ぶ、固（もと）より黄金（おうごん）と鍮鉛（ちうえん）との差（さ）あるハ云（い）ふまでもなし。余輩今此（よはいいまこの）ラフアエル、コランがノルマンヂー婦人（ふじん）の一幅（ぷく）に対（たい）したる後（のち）、満場幾多（まんぢやういくた）の列品（れツぴん）に臨（のぞ）む、只其顔料（たゞそのがんれう）を華麗（くわれい）に手際（てぎは）よく塗抹（とまつ）したるかの如（ごと）き悪感情（あくかんじやう）を惹起（ひきおこ）し来（きた）れるハ、そも何（なん）の故（ゆゑ）ぞ。＠先（ま）づ用筆（ようひつ）の点（てん）より仔細（しさい）に観察（くわんさつ）せんか、人物（じんぶつ）を描(ゑが）くにハ最（もツと）も温雅（をんが）の筆（ふで）を以（もツ）てして、全体（ぜんたい）の姿勢（しせい）に、体格（たいかく）に、俯視（ふし）せる容姿（ようし）、物（もの）を編（あ）める手指（しゆし）、凝視之（ぎようしこれ）を久（ひさ）しふすれバ、自然（しぜん）に丸（まる）みを帯（お）び来（きた）りて、紙幅（しふく）の外（ほか）に活躍（くわつやく）し、樹木（じゆもく）を描（ゑが）くにハ、最（もツと）も蒼勁（さうけい）の筆（ふで）を以（もツ）てして、極（きは）めて烈（はげ）しき光線（くわうせん）を現（げん）じて眼（まなこ）を刺撃（しげき）する程（ほど）の色（いろ）もなく、陰影（いんゑい）と光線（くわうせん）との間（あひだ）に区別（くべつ）なきが如（ごと）くにして、自然（しぜん）に区別（くべつ）ある、彼（か）の温雅（をんが）と此（こ）の蒼勁（さうけい）と相俟（あひま）つて両々其妙（りやうりやうそのめう）に臻（いた）る。次（つぎ）に着色（ちやくしよく）に至（いた）りてハ、人物（じんぶつ）を写（うつ）したる色（いろ）と、樹木（じゆもく）を描（え）がきたる色（いろ）と、何（いづ）れも能（よ）く適切（てきせつ）に真個物（しんこぶつ）に相応（さうおう）し、色彩精抜調和（しよくさいせいばつてうわ）の能（よ）く整（とゝの）ひたる、絵（え）の具（ぐ）ありて絵（え）の具（ぐ）なく、筆（ふで）ありて筆（ふで）なく、人物（じんぶつ）ハ人物（じんぶつ）、樹木（じゆもく）ハ樹木（じゆもく）と、各清景佳興（かくせいけいかきよう）を眼前（がんぜん）に現（げん）じ来（きた）りて、観（み）る者（もの）をして転（うた）に心目（しんもく）を恍惚（くわうかつ）たらしむ、之（これ）を音楽（おんがく）に譬（たと）ふれバ、楽手（がくしゆ）が節奏（せつそう）の妙（めう）、律呂相合（りつりよあひがツ）して純乎其境（じゆんこそのきやう）を想像（さうぞう）せしむるもの、洵（まこと）に是（こ）れ入神（にふしん）の技（ぎ）、他人亦（たにんまた）一手筆（しゆひつ）の加（くわ）ふべきなし。実に衆人共有の景も之を此の手に入るれバ独り超越し、衆人共有の意も之を此筆に上せバ雋逸高邁となる、蓋し大手筆といふべき也。其尺寸の小幅にして而かも人をして偉大なる感情を起さしむるもの固より其所也。＠次（つぎ）に夏野（なつの）の一幅（ぷく）、是（こ）れ稿本（かうほん）にして、未（いま）だ成画（せいぐわ）として見（み）るべからざるものと雖（いへど）も豪放の筆致、能（よ）く郊外（かうぐわい）の陽光（やうくわう）と空気（くうき）とを現出（げんしゆつ）して其色烈（そのいろはげ）しからず、且（か）つ最（もツと）も其手腕（そのしゆわん）の驚（おどろ）くべきハ平地遠近陰影（へいちえんきんいんえい）の能（よ）く整（とゝの）へるに在（あ）りて、次第々々（しだいしだい）に近（ちか）きより遠（とほ）きに及（およ）ぼせる秩序（ちつじよ）の画然（くわくぜん）として表現（へうげん）せられたる、到底凡手（とうていぼんしゆ）の企及（ききふ）する所（ところ）に非（あらざ）る也（なり）。＠ウオルタア、クリフヰン作肖像（さくせうぞう）＠渾然揮灑（こんぜんきさい）し来（きた）れるハ、杉子爵（すぎしゝやく）の令息某氏（れいそくぼうし）の肖像（せうぞう）なりとかや、用筆（ようひつ）の勁健（けいけん）にして沈着（ちんちやく）なる、着色（ちやくしよく）の濃厚（のうかう）にして荘重（さうちう）なる、他（た）の吹（ふ）けバ飛（と）ぶが如（ごと）き浮薄（ふはく）なるものとハ一列（れつ）に見（み）るべからざるもの也（なり）。其土着（そのどちやく）の風習（ふうしふ）に慣（な）れざる本邦人（ほんぽうじん）の服装（ふくさう）を描（ゑが）きたると、其血色（そのけつしよく）を現（あら）はさんがために余（あま）りに褐色（かつしよく）を用（もち）ひ過（す）ぎたるハ惜（を）しむべしと雖（いへど）も、只此（ただこ）の欠点（けつてん）を以（もツ）て全幅（ぜんぷく）の技巧（ぎかう）を没了（ぼつれう）するハ余輩（よはい）の採（と）らざる所也（ところなり）。＠次（つぎ）に春色の一幅（ふく）こハ作家（さくか）が人（ひと）の眼（め）にさはらざる一種（しゆ）の装飾画（さうしよくぐわ）として描（えが）きたるものなれバ、之を尋常普通の風景画として批評するものあらバ、其愚笑ふべき也。遠近濃淡（ゑんきんのうたん）の度（ど）の強（つよ）く烈（はげ）しくして、其着色（そのちやくしよく）の質実（しつじつ）にして十分（ぶん）の重（をも）みある、前幅（ぜんぷく）と相対照（あひたいせう）して蓋（けだ）し此（こ）の作家（さくか）が独特（どくとく）の長所（ちようしよ）なるべし。＠此（こ）の他（た）マリ、カセツトのパステル画母子着実（ちやくじつ）にして能（よ）く其情想（そのじやうそう）を表現（へうげん）し、ロドルフ、ウヰツトマンが秋（あき）の並樹、秋（あき）の陽光（やうくわう）と描（ゑが）きたる、堅実（けんじつ）の筆稱（ふでしよう）すべし。＠列品（れツぴん）に対（たい）する批評（ひゝやう）ハ先（ま）づ之（これ）にて終（をはり）を告（つ）ぐべし若（も）し夫（そ）れ陳列其他出品上（ちんれつそのたしゆツぴんじやう）に対（たい）する意見（いけん）に至（いた）りてハ稿（かう）を改（あらた）めて読者（どくしや）と見（まみ）ゆる所（ところ）あらん。（完） |
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