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中村勝治郎氏の作は団欒を稍ゝ可とす＠ジユリエツト、ウイツマン女の芍薬は昨年已に一見を経しもの、粉黛者流（ふんたいしやりう）の画としては筆力健にして着色亦た可、守株（しゆしゆ）自ら居る画家（ぐわか）に取つて好個の参考品なるべし＠白瀧幾之助氏の休息大幅にして人目を惹くに足れど、後方なる麦圃や、堤や、径や、其何れもが同様に、円まり居る辺（へん）に服する能（あた）はず想（おも）ふに未だ十分着色を了せざりしならむか、人物（じんぶつ）の出来より見るも、今少（いますこ）しく後方を精細（せいさい）に描かざれば調和を欠くか如し、人物は頭より手足の微に至るまで非難すべき点なし但し農夫帰樵（のうふきせう）の姿とせばモデルの選択を誤りしの嫌（きらひ）あり何となれば此の人物にては零落（れいらく）せる旗本（はたもと）と見られ得べければ也、稲村は氏が特有の濃き着色、上乗とや評せん＠ロドロフ、ウイツマン氏の水汲婦及秋の並木細君の画に比し技倆（ぎりゃう）は一歩を譲（ゆづ）れるも、参考品中の上なるもの＠黒田清輝氏の昔語斯る大幅は氏にあらざれば決して成功（せいかう）すべからず氏にして初（はじ）めて此作（このさく）を成し得たりとは蓋し何人も異論（ゐろん）なき所ならむ此画（このぐわ）の偏額としてにあらず壁画として描かれたるは一目瞭然たり而して其の主眼（しゆがん）とする所、僧に在り、観者宜しく僧の形と、手（て）の構（かま）へ処と衣（ころも）の色等とに着目せざるべからず、僧の形に就いては往々非難の声を聞けども、評者（ひようしや）は寧ろ彼の奇妙（きめう）なる手付が観者をして反つて凄悽の感（かん）を為さしむるに幾層（いくそう）の力あらしむるを覚ゆ若し彼の此の手付無らむには何に縁つてか小督の昔語たることを覗（うかゞ）ひ得む彼を囲（かこ）める芸妓舞子等が感に打たれて聴（き）く中に或は横（よこ）を向けるあり或は熱心（ねつしん）に傾聴するあり各々其感覚（おのおのそのかんかく）の異なるを示せる所極めて巧妙なりと云ふべく又周囲の婦人服装が美（び）なるに反して僧の見（み）る影（かげ）もなき姿（すがた）の観者の眼を集中（しふちう）せしむる技倆に至つては決して他の得て擬（ぎ）すべき所にあらず而して賓（ひん）たる芸妓舞子其他（げいぎまひこそのた）の人物の一個々々に就いて見るも亦た間然する所なく評者（ひやうしや）は此画に対して全然同意（ぜんぜんどうい）を表せざる能はず次ぎに佳品と目すべきは干物の画なるべし形、色共に備はり一の偏額として場中（ぢやうちう）の白眉（はくび）と謂ふべし人或は物淋を賞して逸品（いつぴん）と為せども評者は寧ろ彼を捨てゝ此を採らむ＠ウオーター、グリツフヰン氏の肖像画斯くまで粗雑に描き去りても一個の立派なる紳士と見ゆる処技倆の優れたるにあらざれば能（あた）はず、我国（わがくに）の画家が枠の中に押嵌めたるが如き肖像を描き筆の何れより下されたるかも分（わか）らず色をば同一色に彩りて唯だ綺麗（きれい）にのみ描（えが）き以て肖像画の枠を抜（ぬ）けるとなす今日に方りて恁る参考品を得たるは頗る有利なるを疑（うたが）はず単だ衣裳に就いては多少（たせう）の非難（ひなん）を免れざるべきも衣裳中に斯くの如き体格の蔵まれあるとは確かに認識（にんしき）せらるべし、春色は一の洒落画と見るの外なし＠小林萬吾氏の農夫晩帰、農夫の形、馬の形と共に宜しく馬の鼻端（はなづら）など殊に巧（たくみ）なれど其後足に少しく申分あるを微瑕とす遠景の一本木は稍々重きに過ぎたるも概して出色の作（さく）たるを失はず春日郊外菜花と遠景、平穏にして小品中の上乗と見ゆ＠北連蔵氏の遺児の下画組立はなかなか可なるも人物の足と胴との辺に相違の点あるを認む塗上の際改削を加ふれば可ならん、冬枯は前後の木の枝に申分あれども先づは無難に近き作なるべきか（完） |
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