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湯浅一郎氏の漁家はなかなかの大作（たいさく）にて之を描くの苦心想（くしんおも）ふべく、好所を挙（あ）ぐればコンポジシヨンに於て殊（こと）に其宜しきに適（かな）へるを覚（おぼ）ゆ、描法に於ては漁師の胴以上極めて可（か）なるに反（はん）し腰以下多少非難の箇所（かしよ）あるを覚ゆ、要（えう）するに此画の欠点はデツサンの悪（あ）しきに帰すべく若（も）し更に意（い）を此点（このてん）に用ゐたらんには、成功疑ひなかりしなるべし、図面も亦た少しく長きに失（しつ）するの嫌（きらひ）あり、但し衣裳の着色は極（きは）めて穏（おだや）かなり、小幅中にては松林を最佳とす、唯だ近景の頼りなきは失点なるべし＠藤島武二氏の池畔、大幅なると苦心（くしん）の効果（かうくわ）の現はれたるとは確かに他の賞賛に値す、宜なる哉好評の此図に向つて嘖々（さくさく）たりしことや、人物（じんぶつ）の手と足には両者とも無疵、若し強（し）いて微瑕を求めば腰掛下の草色及び池中の蓮葉（はちすは）とも思（おも）はるゝものゝ二つが単純に青く描（ゑが）かれたるに在り、今少（いますこ）しく薄暮（うすぐ）らき色（いろ）を添（そ）へたらむには如何（いかゞ）、海辺の春風着色に申分なく春の穏かなる景色画面に躍如たり＠山本森之助氏は未だ年少（ねんせう）の人の由なるも近々（きんきん）両三年間に於ける伎倆（ぎりやう）の進歩驚くべきものあり今回（こんくわい）も亦非常の勉強（べんきやう）を以て出品も多く佳作（かさく）にも富み或は各先輩の壘を摩するの感あり、挫折せずして進まん乎必ずや一家（か）を成すに至らん努めよや、出品中評者が最も推（お）す所のものは林間の草花、些の非難（ひなん）を加ふべき点（てん）を見（み）ざるも、望蜀の念より言はゞ近景の部分を今少しく明瞭ならしめたし＠ラファエルコラン氏は仏国有名（ふつこくいうめい）の画伯、描く所のノルマンヂイ婦人の画を爰に見るを得たるは観者の目を新にするのみならず優に画家参考に資するを疑（うたが）はず夏の野と題する写生は氏が嘗て巴里市庁の壁画として秋と云へる題の下に中央に半身の裸婦人が朶幾朶の紅葉（もみぢ）を手にして野外（やぐわい）を歩する図を描きたる、其図中左隅一部を画して出品せしものなりとか、又木炭画の雅曲は巴里公立劇場の装飾（そうしよく）として描きたる下画なりと、些々なる着筆中に能く画面を備へしめ、ムツクリと描き去りたる所、何れより見るも大家の作たるに負かず＠長原孝太郎氏は、近来筆をポンチ画に抛うつて真面目の画のみを出品（しゆつぴん）せり昨年に比し漸次進境（ぜんじしんきやう）を見る就中百合花を以て上乗とす＠久米桂一郎氏の残暉、久しく大作を見ざりし際珍しくも此大作（このたいさく）を見しは蓋し非常の奮発（ふんぱつ）たるべし最も苦心を見るべき点は草の極めて能く描かれたるに在り爰は諸家（しよか）の細評せし処（ところ）なれば又た足を画くの蛇を学ばず＠小代為重氏の朝最も佳、空の模様（もやう）と言ひ、前面の山と言ひ極て妥當にして位置（いち）も又適へり＠マイリ、カセツト女の母子是れパステルの画、佳作なり好個（かうこ）の参考品たるべし＠安藤仲太郎氏の作夕暮最も見るべき大作（たいさく）たり、氏は昨年曙の画を出品し朝か晩かとの冷評を蒙りたるに頓着せず其曙に対して夕暮の図を出したる意気甚（いきはなは）だ壮とすべし想ふに氏の真意は朝と夕との着色の相違を彼此相対して人に示さんと欲するにあるか其組立の如き殆（ほとん）ど前回の曙と同（どう）一にして差は唯だ親船と小船とに在（あ）るを見るのみ、佳所（かしよ）は空と水との色にあり船の着色の如きは聊（いさゝ）か腹し難き処（ところ）あり干網（ほしあみ）の如きも前面（ぜんめん）の丘の如きも着色曖昧にして漫然塗抹し去りしやの疑（うたがひ）なき能はず、小作にては五月雨最も佳、夏木立は只堤の草の僅に見るに足るある外、其青みの一切同色なるを憾（うら）む尚足（なほた）るを求めば馬子若（まごもし）くは他の適當なる人物の配置を為さゞりしを拙とせん（未完） |
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