白馬会展覧場＠半成（はんせい）の画面（ぐわめん）に向つて言（げん）を費すは鳥滸（をこ）の沙汰なれば、秋の物語に付ては、暫（しばらく）く言ふを廃（や）むべし、＠強（つよ）き色（いろ）を用ひ又確固（かくこ）たる描方（かきかた）を善しとする久米氏の画風（ぐわふう）は、時ありてか趣味（しゆみ）を傷（きづつ）け鄙調（ひてう）に陥ることなきを保（ほ）せず、これ後進（こうしん）の殊（こと）に難しとする所なり、有繋（さすが）にそを本領（ほんりやう）とするほどありて、久米氏の製作（せいさく）は、自由（じいう）に難関（なんくわん）を出入して趣味（しゆみ）を害（そこな）ふことなし、樹林、村落、丘上の燈台の諸作皆好列（かうれゐ）を示（しめ）せり、されど是等の諸作は決（けつ）して久米氏の伎倆（ぎりやう）を盡（つく）したるものと思（おも）ふべからず、＠安藤仲太郎氏の諸作（しよさく）は、新派の画法（ぐわはふ）に依（よ）りたるが如く又依らざるが如し、語（ご）を換（か）へて言へば、新旧二派の調和（てうわ）にや将（は）た未調和（みてうわ）にや、暫く混沌未分（こんとんみぶん）の中にありと云ふべし、諸作の中東寺を最（さい）とし清水を次（じ）とす、東寺は田圃（でんぽ）の間より遠（とほ）く一叢（そう）の樹林（じゆりん）を見る、暮色漸（ぼしよくやうや）く迫（せま）りて淡靄樹梢（たんあいじゆせう）を罩（こ）め、五重塔（ぢうとふ）高く雲表（うんへう）に聳（そび）えて、これを仰げばいよいよ高（たか）し、密教最古（みつけうさいこ）の寺塔（じたふ）を写すに最も相応（ふさは）しき材（ざい）を採れり、白雲（はくうん）一裂青空（れつせいくう）をあらはす所、稍暗黒（あんこく）に過ぐるの感（かん）あれども、満幅幽悽（まんぷくゆうせい）の気を助（たす）けて却つて一段（だん）の風趣（ふうしゆ）を添（そ）へぬ、必ずしも嫌（けん）とせざるべし、清水は東寺に比すれば数等（すうとう）の下（もと）にあり、其以下（そのいか）は概ね骨（ほね）を折（を）りたるものにあらず、＠中村勝二郎氏の白河、叢林繁（そうりんしげ）きところ一渓通（けいつう）ず、近頃伎倆（ぎりやう）の大に進（すゝ）みたるを見る、中村氏は京都（きやうと）に孤立（こりつ）して新派を学（まな）べるもの、平生相諮（へいせいあひはか）るの師友（しいう）なくして是等の作（さく）を成す、力（つと）めたりと云ふべし、＠長原孝太郎氏の漫画、飲食店の階上最もめでたし、紺足袋（こんたび）を穿（うが）ちて牛の如く肥（こ）えたる給仕女（きふじをんな）の立ちながら私語（しご）するは、此処彼処（こゝかしこ）にまどゐする客（きやく）の品定（しなさだめ）をやなすらん、いといと面白（おもしろ）し、軽妙（けいめう）の筆致学（ひつちまな）び易からず、＠藤嶋武二氏の水彩画（すいさいぐわ）十面、収穫、樹林、村嬢、桃樹の日光（につくわう）に照（て）らされて長く影（かげ）を曳く（ひき）たる、いづれも善（よ）し、唯野塘を描（えが）きたるものには、十分日光（につくわう）の透（とほ）らざる節（ふし）あり、未だ新派の画風（ぐわふう）に同化（どうくわ）し得ざるものも亦有るが如し、＠白瀧幾之助氏の矢口の渡頭、老成（らうせい）の風際立（きはた）ちておもしろし、他の製作（せいさく）と較（くら）べて同日に語（かた）るべからず、波上の弧舟玩具（おもちや）の如く物（もの）の役（やく）に立つべしとも思はれず、拙中（せつちう）の拙なり、懸（か）けざるを善（よ）しとす、＠湯浅二郎氏の諸作（しよさく）、筆力（ひつりよく）概ね似寄（によ）りて白瀧氏の如く巧拙（こうせつ）甚だしからず、夕日を写（うつ）したるかと思はるゝもの就中見栄（みば）えあり、＠合田清氏の木版数種、生巧館（せいかうくわん）の伎倆（ぎりやう）は世に知る人多かるべし、＠今泉秀太郎氏の漫画（まんぐわ）、今必ずしも言（い）はず、
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