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白馬会関係新聞記事 第13回白馬会展

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白馬会画評(二)
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| 澱橋生 | 読売新聞 | 1910(明治43)/05/29 | 5頁 | 展評 |
中央部の壮観@以上(いじやう)は第(だい)一室(しつ)より中央(ちうおう)の一部(ぶ)を除(のぞ)き第(だい)九室(しつ)までの後進作品中(こうしんさくひんちう)の二三に過(す)ぎない此外(このほか)にも佳品(かひん)はある未来(みらい)の大家(たいか)は潜(ひそ)んで居(ゐ)よう更(さら)に此等(これら)が前後(ぜんご)より護衛(ごゑい)せる中央軍第(ちうあうぐんだい)四室(しつ)の出口(でぐち)と第(だい)五室(しつ)の全部(ぜんぶ)に至(いた)りては壮観云(さうくわんい)ふ許(ばか)りない。@中沢弘光氏(し)のは「雪(ゆき)」「湯(ゆ)ケ島(しま)」「姉(あね)」の三点(てん)を初(はじ)め他(た)の七点(てん)とも落附(おちつ)いた中(なか)に旨味(うまみ)がある。評者(ひやうしや)は其中(そのなか)にも「姉(あね)」を最(さい)とする。@岡野栄氏(し)の富士(ふじ)は何(いづ)れも今(いま)一段冴(だんさ)えて貰(もら)ひたい。泊船(はくせん)の見(み)える一図(づ)が好(い)いと思(おも)つた。小林萬吾氏(し)は「舟(ふね)」「桜(さくら)」「駅路(えきろ)」の三点(てん)に穏(おだや)かな所(ところ)を見(み)せ矢崎千代治氏(し)の中(なか)では「スタンドライト」小林鐘吉氏(し)のでは「曇(くも)りの海(うみ)」が一番佳(ばんよ)く見(み)られた。跡見泰氏(し)の五六点(てん)は確(たし)かに氏(し)が一段(だん)の進境(しんきやう)を示(しめ)すが如(ごと)く中(なか)にも「夕(ゆふ)の港(みなと)」「泊船(はくせん)」の二図(づ)は少(すくな)からず感興(かんきよう)を惹(ひ)いて居(ゐ)た。@山本森之助氏(し)の「夕凪(ゆふなぎ)」と「漁火(ぎよくわ)」は夫々雲(それぞれくも)の研究(けんきう)を含(ふく)みたる大作(たいさく)なるが、何(いづ)れも稍(や)や荒(あら)ツぽく「雨(あめ)の山(やま)」の小品(せうひん)の成功(せいかう)せるに比(ひ)すべくもなかつた。「雨(あめ)の山(やま)」は氏(し)が自然観察(しぜんくわんさつ)の精透(せいとう)に入念(にふねん)の技術(ぎじゆつ)を加(くは)へたれば何(なん)とも云(い)へぬ雨(あめ)の心持(こゝろもち)があつて場中(じやうちう)の逸品(いつぴん)であつた。@長原孝太郎氏(し)の「新聞(しんぶん)」は女(をんな)の顔(かほ)がよく出(で)て居(ゐ)た。右(みぎ)の手(て)は少(すこ)し短(みじ)かさうである。橋本邦助氏(し)の「春(はる)のくもり」よく中村勝治郎氏(し)の花物中(はなものちう)では「残菊(ざんぎく)」を取(と)らう岡田三郎助氏(し)の「女(をんな)のあたま」と「少女(せうぢよ)」は画稿(ぐわかう)としては特趣(とくしゆ)の興味(きようみ)を覚(おぼ)える。@黒田清輝氏(し)の「紅葉(こうえふ)」「渓流(けいりう)」「山村(さんそん)」の最小品(さいせうひん)を始(はじ)め十一点(てん)の油画(あぶらゑ)は何(いづ)れも故(ことさ)らに求(もと)めずして力(ちから)あり光(ひかり)あり感(かん)じの温(あたゝ)かなるところ他(た)の企及(ききふ)し難(がた)い趣(おもむき)がある。一は氏(し)が自然観察(しぜんくわんさつ)の微妙(びめう)なるにも因(よ)れど其土台(そのどだい)が技術(ぎじゆつ)の確実(かくじつ)に在(あ)ることを後進(こうしん)の人々(ひとびと)に於(おい)ては特(とく)に留意(りうい)すべきだと思(おも)ふ此外(このほか)パステルで「水(みづ)のほとり」「森(もり)の中(なか)」「婦人(ふじん)の肖像(せうざう)」の三点(てん)がある何(いづ)れも面白(おもしろ)いが就中第(なかんづくだい)三者(しや)は特(とく)に振(ふる)つて居(ゐ)た。或(あ)る洋行土産(やうかうみやげ)の作品(さくひん)を別(べつ)にしては山本氏(し)の「雨(あめ)の山(やま)」と黒田氏(し)の「婦人(ふじん)の肖像(せうざう)」とが中央部内(ちうあうぶない)の偉観(ゐくわん)であつた。(澱橋生)

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