| 六一、斎藤知雄氏（さいとうともをし）の「寂（さび）しき秋（あき）」と六六の「山路（やまぢ）」とは特色（とくしよく）のある画（ゑ）だ、全面（ぜんめん）ヘラを使つたので色（いろ）も汚（よご）れない所（ところ）はあるが、全体（ぜんたい）の調子（てうし）に一種（いつしゆ）の渋味（しぶみ）のあるのが好（よ）い。六八、青山熊治氏（あをやまくまぢし）の「アイヌ」は筆技（ひつぎ）の円熟（ゑんじゆく）が第（だい）一で、構図（こうづ）に於（おい）ても多大（ただい）の成功（せいこう）を収（をさ）めてゐる、夜間（やかん）のアイヌ生活（せいくわつ）の一部（ぶ）が如何（いか）にも面白（おもしろ）い、殊（こと）に中央（ちうあう）の老人（らうじん）と其（そ）の左（ひだり）の女（をんな）二人（にん）と少年（せうねん）とが巧（たくみ）に描（ゑが）かれてゐて右（みぎ）の画面（ぐわめん）の立（た）つた人物（じんぶつ）と下（した）の二人（にん）とは余（あま）り感服（かんぷく）しない、又陰影（またいんえい）になつた人物（じんぶつ）、器具其他総（きぐそのたすべ）ての物（もの）が一種（しゆ）の陰気（いんき）な緑色（りよくしよく）に包（つゝ）まれたのは少（すくな）からず眼（め）に厭（いや）な感（かん）を与（あた）へるが先（ま）づ場中屈指（ぢやうちうくつし）の作（さく）であつて、或（あるひ）は一昨年（さくねん）あたりの文部省展覧会（もんぶしゆうてんらんくわい）にでも出（で）たらば随分人気（ずゐぶんにんき）を呼（よ）び集（あつ）めたらうと思（おも）はれるが惜（おし）い事（こと）である。＠八九、熊谷守（くまがひしゆ）一氏（し）の「轢死（れきし）」はアイヌと並（なら）んで一異彩（いさい）を放（はな）つてゐる、之（これ）も円熟（ゑんじゆく）した技倆（ぎりやう）が先（ま）づ眼（め）に這入（はい）る、此（こ）の厭（いや）な難物（なんぶつ）の画題（ぐわだい）を好（よ）く如此描（かくのごとくゑが）きこなして不快（ふくわい）の感（かん）を与（あた）へない所（ところ）が好（よ）い、殊（こと）に夜（よ）の人体（じんたい）の幽（かす）かな光（ひかり）に依（よ）つて伺（うかゞ）つた色（いろ）が実（じつ）に巧（たくみ）に露（あらは）れてゐる、此様（こう）いふ隠（かく）れたる美術的努力家（びじゆつてきどりよくか）に対（たい）して奨励（しやうれい）する美術保護者（びじゆつほごしや）は無（な）いものかしらん。＠第（だい）三室（しつ）は見渡（みわた）す所板（ところいた）の小品計（せうひんばか）り、然（しか）し此（こ）の小品（せうひん）に却（かへつ）て面白（おもしろ）いものが多（おほ）い、一四五近藤重（こんどうぢふ）一郎氏（らうし）の「雪（ゆき）の夕（ゆふべ）」は柳（やなぎ）の幹（みき）の手法（しゆはふ）など面白（おもしろ）く、一七三藤田嗣治（ふぢたつぎぢし）の「山（やま）より」は遠景（ゐんけい）が殊（こと）に好（よ）く、一七七太田（おほた）三郎氏（らうし）の「パンジー」は色（いろ）の寒（さむ）い汚（きたな）い所（ところ）はあるが花（はな）を描（ゑが）く手法（しゆはふ）に巧（たくみ）な所（ところ）がある。＠第（だい）四室（しつ）二０八、水彩画（すゐさいぐわ）「雨（あめ）の晴（は）れ間（ま）」は萬代恒志氏（ばんだいつねしし）の作品中（さくひんちう）一位（ゐ）を占（し）めるもので、雲煙（うんえん）のかゝつた山（やま）と近景（きんけい）の村落樹木（そんらくじゆもく）に一種（しゆ）の味（あぢ）がある。＠二一一「京都（きやうと）スケツチ」中沢弘光氏（なかざはひろみつし）の作（さく）は雨中（うちう）の橋（はし）を描（ゐが）いたものと二一五の「京都遊廓（きやうというくわく）」とが面白（おもしろ）い、温泉場（をんせんば）の中（なか）では「伊豆山（いづさん）の湯瀧（ゆたき）」を描（ゑが）いたものが洒落（しやらく）の中（うち）に味（あぢ）はひがある、二一四の油絵婦人（あぶらゑふじん）は背景（はいけい）の海（うみ）の冴（さえ）た色（いろ）が少（すこ）し強過（つよす）ぎるが女（をんな）の面（をもて）は濁（にご）らない善（よ）い色（いろ）でやつてある、二二二柴田節蔵氏作（しばたせつざうしさく）「林檎（りんご）」は桜（さくら）より数等好（すうとうよ）い画（ゑ）であるが少（すこ）し窮屈（きうくつ）の感（かん）がする。 |
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