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白馬会関係新聞記事 第5回白馬会展

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白馬会展覧会(はくばくわいてんらんくわい)一口評(くちひやう)
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| しらうと | 二六新報 | 1900/10/21 | 4頁 | 展評 |
△安藤仲太郎氏の「三保(みほ)の残暉(ざんぐん)」は、遠景(ゑんけい)の山(やま)や空(そら)が善(よ)く出来(でき)て居(ゐ)る、前景(ぜんけい)の稲村(いなむら)、稲村(いなむら)の下(した)から土砂(どしや)の崩(くづ)れて居(ゐ)るあたりも拙(まづ)くない併(しか)し中景(ちうけい)の波(なみ)は波(なみ)と見難(みがた)い描方(かきかた)である△湯浅一郎氏の「海辺逍遥(かいへんせうえう)」は、善(よ)い意匠(いしやう)であるが、船(ふね)も老船頭(らうせんどう)も描方(かきかた)が拙(まづ)い、爾(そ)うしてペンキ画(ゑ)の看板(かんばん)のやうに見(み)えるのは此画(このゑ)の為(た)めに惜(をし)むべきである、同氏(どうし)の「村嬢(そんぢやう)」は林樹(りんじゆ)の間(あひだ)に休(やす)んで居(ゐ)るにしては、有心(いうしん)らしく見(み)える、人(ひと)に対(たい)して遠慮(えんりよ)して居(ゐ)る容子(ようす)が見(み)える、併(しか)し林間(りんかん)にさした光線(くわうせん)は善(よ)く描(ゑがか)れてある△中沢弘光氏の「閑庭(かんてい)」は、潅木草笨(くわんぼくさうほん)の多(おほ)い庭(にわ)を善(よ)く描(ゑが)いて居(を)るが、簾(すだれ)をあげて居(ゐ)る婦人(ふじん)の描方(かきかた)は間(ま)が抜(ぬけ)て居(ゐ)る△岡野栄氏の「船(ふね)」は、船(ふね)を只長(ただなが)く画(か)いたので平凡(へいぼん)に陥(おちい)つた、中景(ちうけい)の家(いへ)と松(まつ)は上出来(じやうでき)で、海上(かいじやう)の少(すこ)し暗(くら)い処(ところ)など暴風(あらし)でも来(き)さうでチヨツト面白(おもしい)い△磯野吉雄氏の「秋(あき)の草花(くさばな)」は菜(な)の花(はな)のやうな女郎花(をみなへし)が画(えが)かれてある△井上雄太郎氏の「絹川中岩(きぬがはちういは)の景(けい)」は綺麗(きれい)であるが、着色写真(ちやくしよくしやしん)と云(い)ふ譏(そしり)を免(まぬが)れない△山本森之助氏の「落葉(おちば)」は、満地(まんち)の落葉(らくえう)に龍(りう)の髯(ひげ)と称(しよう)する草(くさ)を点綴(てんてつ)したなど、チヨツト面白(おもしろ)く出来(でき)て居る(ゐ)、同氏(どうし)の「晩帰(ばんき)」は馬曳(うまひい)て戻(もど)るところを善(よ)く画(かい)てある此人(このひと)の画(ゑ)には山(やま)でも家(いへ)でも樹(き)の梢(こづゑ)でも三角形(かくけい)が多(おほ)く、其姓名(そのせいめい)に三角形(かくけい)の字(じ)の多(おほ)いのと相待(あいま)つて不思議(ふしぎ)と謂(い)ふべきである(しらうと)

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