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グレー滞在日記


1892.09.30

九月三十日附 グレー發信 父宛 封書

 八月二十六日附の後尊書並ニ二百五十圓の爲換券本日慥ニ相屆難有後禮申上候 御全家御揃益御安康の由大慶此事ニ奉存候 新二郎よりも二度程便有之候 元氣にて勉學の趣申來候 御安心可被下候 $ミシガン$よりハ手紙も十二三日目ニ屆候間隣ニ住ひ居るの心地致し候事ニ御座候 鹿兒島伯父様ニハ近頃御上京中の由しばらくの内なりとも御賑にてよろしき事と奉存候 私かきかけ居候夏の畫思ふ様ニ出來不申一時打すて置候得共友人共是非仕上致す様申呉候間又々少しく力を得再ひ取り懸り申候 此の下畫一通り出來候上ハ教師へ見せ意見承り度存候 若シ教師の氣ニ入候ハヽ共進會へ持ち出し可申候 何ニしろ來年限りの事故例の大きな共進會の外の小さな共進會へも一二枚出品致し度存候 此の方ハ先づ私立中の私立とも可申ものにて數十人の畫工集て一つの會を立て其會員のみ出展の權利を持つ組立ニ御座候 其會員と爲るニハ一ケ年ニ何ニがしかの會費ヲ出す事ニ御座候 如此會の會員と爲り居れバ日本へ歸り候ても矢張毎年巴里へ畫を送り人ニ見せて評を得るの便有る事ニ御座候 私の考にてハ日本人を相手に畫をかく様ナ事ニては進歩ハむづかしく何と云ても敵ハ巴里ニ在りと存候 餘附後便候也 早々 頓首
父上様
清輝拜

 御自愛專要ニ奉祈候