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白馬会関係新聞記事 第13回白馬会展

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白馬会画評(はくばくわいぐわひやう)(二)
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| 丹青子 | 国民新聞 | 1910(明治43)/05/24 | 6頁 | 展評 |
第(だい)四室(しつ)に這入(はひ)ると此処(こゝ)には水彩画(すゐさいぐわ)パステル画(ぐわ)が多(おほ)い。先(ま)づ一寸面白(ちよつとおもしろ)いと思(おも)つたのは二百十九の風景(ふうけい)(玉尾武雄(たまをたけを))であつた。極簡単(ごくかんたん)なやり方(かた)で運筆(うんぴつ)が一々利(き)いて無駄(むだ)がない。之(これ)は大変面白(たいへんおもしろ)いが余(あま)り小幅(せうふく)で技倆(ぎりやう)を云々(うんぬん)するは過大(くわだい)に失(しつ)する。後日(ごじつ)を期(き)せねばならぬ。南薫(みなみくん)三とは如何(どう)した人(ひと)か知(し)らぬが英国(えいこく)の写生(しやせい)が五枚出(まいで)てゐる。其中(そのうち)で二百五十六の橋(はし)とウヰンゾル宮と古い豚小屋の三枚(まい)が面白(おもしろ)い。之(これ)が本統(ほんとう)の英国流(えいこくりう)を伝(つた)へたものと思(おも)ふ。三宅克己君(みやけかつみくん)の水彩画(すゐさいぐわ)よりも面白(おもしろ)い。形(かたち)がしつかりして色(いろ)も確(たし)かで日本(にほん)の水彩画(すゐさいぐわ)のポカポカしたのとは大(おほい)に違(ちが)ふ。其(そ)の隣(となり)に黒田清輝君(くろだきよてるくん)の画(ゑ)が三枚懸(まいかゝ)つてゐる。其内(そのうち)二百六十の水のほとりは三人(にん)の女(をんな)が水辺(すゐへん)に寝転(ねころ)んでるパステル画(ぐわ)、之(これ)は色(いろ)が大変(たいへん)に面白(おもしろ)い。が二百六十一の婦人(ふじん)は黒田君(くろだくん)としては出来(でき)の悪(わる)い方(はう)だらう。固(かた)すぎて輪郭(りんくわく)もよくない。二百六十三、六十四は何(どち)らも岡田(をかだ)三郎助君(ろすけくん)の画(ゑ)の草稿(さうかう)で女(をんな)の頭(あたま)だけ描(か)いてある。毎時綺麗(いつもきれい)な華奢(きやしや)な仕事(しごと)が小(ちひ)さい丈(だけ)に我々(われわれ)は今度(こんど)の方(はう)を出色(しゆつしよく)の作(さく)と思(おも)ふ。それから湯浅(ゆあさ)一郎君(らうくん)の水彩画(すゐさいぐわ)が沢山(たくさん)ある。西班牙流(すぺいんりう)か何(なに)か知(し)らぬが日本人(にほんじん)には余(あま)り歓迎(くわんげい)されぬらしいが非常(ひじやう)に強(つよ)い色(いろ)で堅(かた)いやり方(かた)で日本人(にほんじん)のやつた事(こと)のないやり方(かた)だから一寸面白(ちよつとおもしろ)く思(おも)ふが我々(われわれ)は湯浅君(ゆあさくん)の仕事(しごと)としては油絵(あぶらゑ)の真面目(まじめ)なスケツチを取(と)る。大抵半身(たいていはんしん)の女(をんな)であつた。その内(うち)二百八十九と二百九十を面白(おもしろ)いと思(おも)ふ。緑蔭の女(をんな)の顔(かほ)は色(いろ)がよく、四辺(あたり)の配合(はいがふ)は悪(わる)くないが少(すこ)し固(かた)きに失(しつ)する。それからずつと見(み)て目(め)に留(とま)つたのは三百六の新緑(中沢弘光(なかざはひろみつ))。之(これ)は極大人(ごくおとな)しい色(いろ)で上品(じやうひん)に仕上(しあげ)て無難(ぶなん)な作(さく)。道(みち)の高低(かうてい)なぞもよいが惜(を)しい事(こと)に空(そら)が調和(てうわ)せぬ。三百二十七の夕凪(山本森之助(やまもともりのすけ))は苦心(くしん)の作(さく)らしい出品中(しゆつぴんちう)では大(おほ)きい方(はう)である。雲(くも)がよい。水(みづ)は固(かた)くて動(うご)かぬ且(か)つ平板(へいばん)に失(しつ)してゐる。今(いま)一つの漁火は出来栄(できばえ)から云(い)へば遜色(そんしよく)がある。雲(くも)が青過(あをす)ぎて光度(あかり)が利(き)いてゐない。その近所(きんじよ)三百二十九の跡見泰(あとみたい)の泊船は色(いろ)も様子(やうす)もよいが時間(じかん)の説明(せつめい)に欠(か)けてゐる。何時(いつ)を書(か)いたんだか分(わか)らない。藤島武(ふぢしまたけ)二君(くん)の滞欧紀念(たいあうきねん)スケツチは二十六七枚(まい)ある。荒(あら)ツぱな仕事(しごと)で印象派(アムプレツシユニズム)でもなく従来(じうらい)の黒田流(くろだりう)の主唱(しゆしやう)した色(いろ)でもなく今日西洋(こんにちせいやう)で行(おこな)はれてる色(いろ)らしいが仲々面白(なかなかおもしろ)い。併(しか)し政府(せいふ)の金(かね)を貰(もら)つて四年(ねん)も留学(りうがく)した人(ひと)のお土産(みやげ)としては軽少(けいせう)に過(す)ぎる。何(なに)も一度(ど)に見(み)せて呉(く)れなくともよいが力(ちから)のある物(もの)を一枚位見(まいぐらゐみ)せて貰(もら)ひ度(た)い。一時間(じかん)で出来(でき)る様(やう)なものを二三十枚見(まいみ)せて貰(もら)つた処(ところ)が溜飲(りういん)が収(をさ)まり兼(か)ねる。

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