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白馬会関係新聞記事 第11回白馬会展

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白馬会展覧会(はくばくわいてんらんくわい)(中)
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| 都新聞 | 1907(明治40)/10/21 | 1頁 | 展評 |
岡田氏(をかだし)には肖像画(せうざうぐわ)の出品(しゆつぴん)がある。和田英作氏(わだえいさくし)の同種(どうしゆ)の画(ゑ)と較(くら)べて技巧(ぎこう)は矢張岡田氏(やはりをかだし)のが巧(うま)い。併(しか)し、その放膽的(はうたんてき)な描(か)き方(かた)は或(あるひ)は氏(し)の得意(とくい)なのかも知(し)らぬが、其(その)センチメンタルな画風(ぐわふう)を見(み)なれた眼(め)には何時(いつも)の細心精緻(さいしんせいち)は方(はう)が好(よ)いやうに思(おも)ふ。それから見(み)ると、和田氏(わだし)のが平凡(へいぼん)な丈(だ)けに無難(ぶなん)である。岡田氏(をかだし)の他(た)の出品(しゆつぴん)に少女(をとめ)の図(づ)がある。少女(をとめ)の顔(かほ)が非常(ひじやう)に長(なが)いので笑止(せうし)に云(い)ふものもあるが、それはモデルが悪(わる)いので作家(さくか)の責(せめ)ではない。技巧(ぎこう)も確(たし)かに調子(てうし)も好(よ)く、人物画(じんぶつぐわ)としては出色(しゆつしよく)の方(はう)である。@小林萬吾氏(こばやしまんごし)は前回(ぜんくわい)の静女(しづか)ほどの出品(しゆつぴん)はなく、京都(きやうと)を主題(しゆだい)とした小品(せうひん)が出(で)て居(を)る。長原氏(ながはらし)の作(さく)はトーンの硬(かた)いのは依然(いぜん)として目立(めだ)つけれども、何(いづ)れも心地(きもち)が好(い)い殊(こと)に裸体(らたい)は最(もつと)も優(すぐ)れて居(を)る。@黒田氏(くろだし)のは肖像(せうざう)を始(はじ)め裸体花卉(らたいくわき)などの小品(せうひん)が出品(しゆつぴん)されてある。氏(し)の全力(ぜんりよく)を盡(つく)したものではあるまいが流石(さすが)に一つ一つに妙味(めうみ)があつて他(ほか)の出品(しゆつぴん)と較(くら)べると遥(はる)かに高(たか)く傑出(けつしゆつ)して居(を)る。殊(こと)に不用意(ふようい)の間(かん)に妙(めう)があつて何処(どこ)となく重味(おもみ)があるのは同氏(どうし)の特色(とくしよく)で、今更(いまさら)ながら修練(しゆれん)の効(かう)を感(かん)ぜられる。@水彩(すゐさい)の部(ぶ)には三宅氏(みやけし)の出品(しゆつぴん)が最(もつと)も多(おほ)い。氏(し)は一時水彩画家(じすゐさいぐわか)として称揚(しようやう)されたものだが、近年(きんねん)の傾向(けいかう)は次第(しだい)にコンヴエンシヨナルになつて今回(こんくわい)の出品(しゆつぴん)は殊(こと)に此傾向(このけいかう)が最(もつと)も著(いちじ)るしいやうに見受(みう)けられる。それで、何(ど)れを見(み)ても皆(みな)一様(やう)で、山(やま)も川(かは)も更(さら)に変化(へんくわ)がない。発達(はつたつ)が止(とま)つたのか、研究(けんきふ)を廃(よ)したのか、兎(と)に角(かく)、氏(し)の覚醒(かくせい)を願(ねが)ひたいものである。

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