| 和田英作氏（し）の「あるかなきかのとげ」聞（き）く氏（し）が此絵（このゑ）を成（な）すに就（つ）いては容易（ようい）ならざる苦心（くしん）と、少（すくな）からざる費用（ひよう）とを以（もつ）てせられたと誠（まこと）に場中屈折（ぜうちうくつせつ）の大幅（たいふく）ではあり、且（か）つ白馬会（はくばくわい）あつて以来情史（いらいぜうし）に依（よ）つて画題（ぐわだい）を構（かま）えられた事（こと）は蓋（けだ）し此（これ）が初（はじ）めてゞあろう、吾人（ごじん）は兎（と）にも角（かく）にも先（ま）づ其（そ）の労（らう）に謝（しや）せざるを得（え）ない。＠少婦鑷（せうふけぬき）を取（と）つて情人（ぜうにん）の指（ゆび）を治（ち）す、蓋（けだ）しとげはあるかなきかのもの両個（れうこ）の愛情（あいぜう）を現（あら）はすには真（しん）に好個（かうこ）の着想（ちやくそう）で、吾人（ごじん）は開会（かいくわい）に先（さきだ）ち此絵（このゑ）あるを聞（き）き、其（そ）の如何（いか）なる図柄（ずがら）であるかを危（あやし）む所（ところ）あつたが、今絵（いまゑ）に対（たい）して誠（まこと）に清浄（せいぜう）なる恋愛（れんあい）を想像（さうざう）する事（こと）が出来（でき）た。＠此絵（このゑ）に就（つ）いて吾人（ごじん）の望（のぞ）みが二三ケ所（しょ）ある、必（かなら）ずしも蝦瑾（かきん）ではない、只斯（ただか）くあつたならばと云（い）ふ吾人（ごじん）の慾望（よくばう）である、其（そ）は先（ま）づ第（だい）一に男（をとこ）の顔（かほ）と女（をんな）の顔（かを）とを取替（とりか）えたいと思（おも）ふのである、そば女（をんな）をして此絵（このゑ）の男（をとこ）の濃艶（のうえん）を有（もた）せたいので、第（だい）二に後方壁上（こうはうへきぜう）の衣類（いるゐ）がなかりせば、今少（いますこ）し画（ゑ）が快活（くわいくわつ）になりはせまいかシカシ無論壁（むろんかべ）の露（あら）はれたるよりは良（よ）いが、人物総体（じんぶつそうたい）が絵（ゑ）の上位（ぜうゐ）にあつて、庭（には）が看（み）せられたらば、壁隠（かべかく）れ、且（か）つ現（あら）はるゝ庭（には）の上（うへ）に多少（たせう）の意匠（いせう）がなし得（え）られたのであらう。第（だい）三に、後方（こうはう）に見（み）ゆる、障子（せうじ）の桟（さん）の横重（よこしげ）が、縦重（たてしげ）であつたならば今少（いますこ）し場所（ばしよ）の聯想（れんそう）を強（つよ）く人（ひと）に与（あた）へるのであらうと思（おも）ふ。第（だい）四に、女（をんな）の着眼点（ちやくがんてん）が真個（しんこ）に指（ゆび）にある、無邪気（むじやき）なる恋（こゐ）としては差支（さしつか）へもなからうが、此（これ）を男（をとこ）の瞳（ひとみ）と合（あは）はしたならば、燃（も）ゆるが如（ごと）き表情（へうぜう）は完全（くわんぜん）に現（あら）はされたのであらう。 |
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