| 白馬会（はくばくわい）の隣（となり）の紫玉会（しぎよくゝわい） 是（こ）れハ殆（ほと）んど玉置照信（たまきてるのぶ）と云（い）ふ人（ひと）の絵（ゑ）を並（なら）べ立（た）てた展覧会（てんらんくわい）と云（い）つてもいゝ位（くらゐ）だ此方（こちら）にハ白馬会程入（はくばくわいほどはい）る人（ひと）が多（おほ）く無（な）い（絵（ゑ）が好過（よす）ぎて俗眼（ぞくがん）に入（い）らぬと云（い）ふ訳（わけ）でハあるまいが、併（しか）し多（おほ）く無（な）い見物人（けんぶつにん）の中（うち）の多（おほ）くがドンナ絵（ゑ）の前（まへ）に立（た）つかとなれバ、此方（こちら）も矢張（やは）り白馬会（はくばくわい）と同（おな）じ事（こと）で、小杉（こすぎ）と云（い）ふ人（ひと）の画（か）いた「暮鐘（ぼしよう）」「晩帰（ばんき）」等（とう）△彩色（いろ）の底（そこ）に隠（かく）してある 方（はう）のだ、「暮鐘（ぼしよう）」ハ余（あま）り別嬪（べつぴん）でない海老茶式部（えびちやしきぶ）が花（はな）の盛（さか）りの桜（さくら）の幹（みき）と凭（よ）り掛（かゝ）つて川向（かわむか）ふの浅草（あさくさ）の鐘（かね）を聞（き）いて居（ゐ）る、「晩帰（ばんき）」ハ少年（せうねん）の農夫（のうふ）が鍬（くは）を擔（かつ）いで帰（かへ）つて来（く）るところだ、けれども夕暮（ゆふぐれ）の景色（けしき）に包（つゝ）まれた人物（じんぶつ）さへ画（か）けバ必（かなら）ず珍世界的見物人（ちんせかいてきけんぶつにん）を引（ひ）くことが出来（でき）ると極（きま）つた訳（わけ）でハ無（な）い、珍世界的見物人（ちんせかいてきけんぶつにん）でも美（び）に対（たい）する不■体（ふ■■たい）でハあるまい。真（しん）にいい絵（ゑ）を見（み）せられたら奇妙奇天烈感以上（きめうきてれつかんいじやう）の感（かん）を起（おこ）すに相違無（さうゐな）い、玉置先生（たまきせんせい）の「感（かん）」と題（だい）した△気取（きど）つた絵（ゑ） などハモツト好（よ）く画（か）いたら屹度人（きつとひと）が立（た）つよ、束髪女史（そくはつじよし）が片手（かたて）に本（ほん）を提（さ）げて片手（かたて）を胸（むね）に當てゝ、青白（あをじろ）い彩色（いろ）を塗（ぬ）られた淋（さび）しい景色（けしき）の中（なか）に立（たつ）て居（ゐ）る、小説（せうせつ）を読（よ）んで標題（へいだい）の所謂（いはゆる）「感（かん）」を起（おこ）したのだらう、珍世界的見物（ちんせかいてきけんぶつ）の一人曰（にんいは）く「気障（きざ）な風（ふう）の女（をんな）だが、徃来（わうらい）で癪（しやく）を起（おこ）したんだね、可哀（かあい）さうに」と、大抵是位（たいていこのくらゐ）で今（いま）の見物人（けんぶつにん）と油絵（あぶらゑ）の関係（くわんけい）が判（わか）るだらう、特（とく）に見物人（けんぶつにん）と云（いふ）て置（お）く（おしまひ） |
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