| △さて手短（てみじ）かに三展覧会（てんらんくわい）を紹介（せうかい）せんに、日本美術院（にほんびじゆつゐん）の絵画共進会（くわいぐわきようしんくわい）ハ本月（ほんげつ）一日より来月（らいげつ）卅日迄開（までひら）かるゝ筈（はず）にて場所（ばしよ）ハ谷中初音（やなかはつね）町団子坂（だんござか）より遠（とほ）からぬ所（ところ）なれバ菊見（きくみ）の序（ついで）に歩（ほ）を枉（ま）ぐるも妙（めう）ならん、陳列（ちんれつ）の絵画（くわいぐわ）ハ数（す）百点（てん）に上（のぼ）れり＠△橋本雅邦氏ハ太公望、蓮花、燕子花等（とう）すべて六枚（まい）を出品（しゆつぴん）されたり、太公望の他（た）ハいづれも筆数少（ひつすうすくな）き小品（せうひん）にて氏（し）に取（と）りてハ朝飯前（あさめしまへ）の仕事（しごと）ならん、筆力勁健（ひつりよくけいけん）にして気品（きひん）の高（たか）きハ例（れい）の如（ごと）しと雖（いへど）も、代価（だいか）の高（たか）きも亦例（またれい）の如（ごと）く、一枚（まい）百五十円（ゑん）と附（つ）けられたり、余（よ）の見（み）し時（とき）ハいまだ売約済（ばいやくずみ）の紙片（しへん）なかりも、久（ひさ）しからずして買手（かひて）のつくことならん＠△現存（げんそん）の画家（ぐわか）にして其小品（そのせうひん）の一枚（まい）百金乃至（きんないし）二百金（きん）の驚（おどろ）くべき高価（かうか）を以（もつ）て速（すみやか）に購客（こうかく）を見出（みいだ）すもの、古往今来雅邦氏唯（こわうこんらいがはうしたゞ）一人（にん）なるべし、これを以（もつ）て見（み）るも一ハ流行（りうかう）に因（よ）るとハいへ如何（いか）に邦人（はうじん）の美術（びじゆつ）を尚（たつと）ぶの観念（くわんねん）が進歩（しんぽ）せしかを見（み）るべし＠△思（おも）ふに雅邦氏（がはうし）が毎年（まいねん）の所得（しよとく）ハ莫大（ばくだい）なるものならん、然（しか）も聞（き）く所（ところ）に拠（よ）れバ氏（し）ハ寡慾（くわよく）にして蓄財（ちくざい）の念薄（ねんうす）くいまだ大（だい）なる富（とみ）を作（つく）るに至（いた）らずと、高風誠（かうふうまこと）に欽慕（きんぼ）するに堪（た）へたり＠△雅邦氏（がはうし）と殆（ほとん）ど並（なら）び称（しよう）せらるゝ川端玉章氏（かはゞたぎよくしやうし）ハ大（おほい）に性質（せいしつ）の異（こと）なれる人（ひと）なりと聞（き）く、氏（し）ハ最（もつと）も業務（げふむ）に勤勉（きんべん）にして、潤筆料（じゆんぴつれう）によりて作（つく）る所（ところ）の画（ゑ）を上下（しやうか）し、日夜孜々（にちやしゝ）として貯蓄（ちよちく）に余念（よねん）なく、富既（とみすで）に十萬金（きん）に上（のぼ）れりとぞ、玉章氏（ぎよくしやうし）の画（ぐわ）の雅邦氏（がはうし）のそれに比（くら）べて俗気（ぞくき）の多（おほ）き故（ゆゑ）ありといふべし＠△今（いま）の社会（しやくわい）が真（しん）に技倆（ぎりやう）ある画家（ぐわか）に報（むく）ゆる所決（ところけつ）して吝（やぶさか）といふべからざること此（この）二画伯（ぐわはく）の例（れい）に見（み）るべし、吾人（ごじん）ハ常（つね）に幾多（いくた）の美術家（びじゆつか）が不遇（ふぐう）を嘆（たん）じ社会（しやくわい）の彼等（かれら）を優遇（ゆうぐう）せざるを憤（いきどほ）るの声（こゑ）を聞（き）く、成（な）る程多少（ほどたせう）の不公平（ふこうへい）ハあらん、然（しか）も今（いま）の世（よ）にハ伯楽昔（はくらくむかし）の如（ごと）く稀（まれ）ならず、彼等（かれら）にして真（しん）に千里（り）の駿（しゆん）ならバ早晩看出（さうばんみいだ）さるること確（たしか）なり、彼等不平（かれらふへい）をいふの閑（ひま）あらバ技芸（ぎげい）を琢磨（たくま）せよ＠△談（だん）ハ思（おも）はず岐路（きろ）に入（い）りしが、美術院今年（びじゆつゐんこんねん）の展覧会（てんらんくわい）に観山大観（くわんざんたいくわん）一流（りう）の妖怪画（おばけゑ）を多（おほ）く見（み）ざるハ幸（さいはひ）なり、唯（たゞ）一枚（まい）大観氏の迷子と題（だい）する日本画（にほんぐわ）でもなく況（ま）して西洋画（せいやうぐわ）にハ似（に）てもつかざる不思議（ふしぎ）の画（ゑ）あり、御當人（ごたうにん）ハ定（さだ）めし得意満々（とくいまんまん）ならんも吾人（ごじん）の眼（まなこ）にハ何等（なんら）の美感（びかん）を与（あた）へざりき＠△寺崎広業氏（し）ハ顔色憔悴形容枯槁（がんしよくせうすゐけいようこかう）せる一人物（じんぶつ）の土牢内（つちらうない）に端座（たんざ）せる図（づ）を出（いだ）されたり、多分護良親王（たぶんもりながしんわう）のつもりなるべし、佳作（かさく）とハいひ難（がた）し＠△川合玉堂氏（し）の紅露と題（だい）するもの最（もつと）も人目（ひとめ）を惹（ひ）きつゝあるが如（ごと）し、紅（あか）き萩（はぎ）の咲（さ）き乱（みだ）れたるを押（お）し分（わ）けて愛（あい）らしき少女（せうぢよ）の姿（すがた）を現（あら）はしたるもの、美（うつく）しき画（ゑ）なり＠△玉堂氏（し）ハ又（また）絶望の夕べなる凄惨（せいさん）なる画（ゑ）を出（いだ）されたり、これ亦佳作（またかさく）といふべし、此他（このた）中島醇泉氏（し）の蛍、上村松園女史の時雨等（とう）いづれも多（おほ）くの注意（ちうい）を以（もつ）て見（み）るべし＠△白馬会（はくばくわい）と日本美術協会（にほんびじゆつけふくわい）の展覧会（てんらんくわい）ハ共（とも）に上野（うへの）に在（あ）り、白馬会（はくばくわい）にハ黒田清輝、和田英作、藤島武二、岡田助三郎、三宅克己諸氏（しよし）の作（さく）三百余種（よしゆ）を陳列（ちんれつ）せり、中（なか）に就（つ）きて最（もつと）も見（み）るべきハ三宅氏（みやけし）の水彩画（すゐさいぐわ）にして、氏（し）が外国土産（ぐわいこくみやげ）の巴里風物（ぱりふうぶつ）のスケツチ十数種（すしゆ）いづれも見事（みごと）の出来（でき）なり＠△三宅氏（みやけし）の名漸（なやうや）く知（し）られ氏（し）の非凡（ひぼん）の伎倆次第（ぎりやうしだい）に認（みと）めらるに至（いた）りしハ喜（よろこ）ぶべし、されど世人（せじん）ハ我邦（わがくに）に猶（なほ）一人水彩画（にんすゐさいぐわ）の名手（めいしゆ）あることを知（し）らざるに似（に）たり、此人（このひと）ハ即（すなは）ち大下藤次郎氏（し）、其作温雅（そのさくおんが）にして親（したし）むべく、愛（あい）すべく気品高尚（きひんかうしやう）にして些（さ）の俗気（ぞくき）なし、其伎倆三宅氏（そのぎりやうみやけし）と伯仲（はくちう）して共（とも）に我洋画界（わがようぐわかい）の誇（ほこ）りとなすに足（た）る、聞（き）く大下氏（おほしたし）ハ不日欧米漫遊（ふじつおうべいまんいう）の途（と）に上（のぼ）らると、思（おも）ふに欧山米水（おうざんべいすゐ）の霊更（れいさら）に氏（し）の美（び）の心（こゝろ）に感応（かんおう）して氏（し）の伎倆（ぎりやう）に一段（だん）の進歩（しんぽ）を見（み）ん＠△日本美術協会（にほんびじゆつけふくわい）の展覧会（てんらんくわい）ハ主（しゆ）として陶器金銀装飾物彫刻等（たうきゝんぎんさうしよくぶつてうこくとう）の美術品（びじゆつひん）を陳列（ちんれつ）して絵画（くわいぐわ）ハ客位（かくゐ）にあり、あれやこれやにつきて言（い）はんと欲（ほつ）する事（こと）もあれど、はや余（あま）りに多（おほ）く書（か）きたり、如（し）かず筆（ふで）を擱（さしお）かんにハ
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