| 一昨々日（さくさくじつ）から初（はじ）まつた白馬会（はくばくわい）はまだ入口（いりぐち）が出来（でき）ぬにも拘（かゝは）らず観覧者（くわんらんしや）の多（おほ）いのは白馬会（はくばくわい）のお得意（とくい）の為（ため）であらう、此度（このたび）の装飾（さうしよく）は極（ご）く真面目（まじめ）に造（つく）られ中（なか）も唯（た）だ真（まつ）四角（かく）に造（つく）つただけで白馬会（はくばくわい）の特色（とくしよく）は別（べつ）に現（あら）はれて居（ゐ）ない＠今回（こんくわい）の出品（しゆつぴん）を見（み）るに先輩（せんぱい）の絵画（くわいぐわ）は至（いた）つて少（すく）ない、黒田氏（くろだし）などのスケツチの小（ちい）さいのを五六枚（まい）しか出品（しゆつぴん）せんやうであるし安藤氏（あんどうし）も非常（ひじやう）に小（ちい）さいものを申訳（まをしわけ）だけに出（いだ）して居（を）るかのやうに思（おも）はれる、先（ま）づ目立（めだ）つのは岡田氏（おかだし）と和田氏（わだし）の絵（ゑ）で夫（それ）から非常（ひじやう）にコンポジシヨンをやつたのは小林萬吉氏（し）の水難救済（すゐなんきうさい）の図（づ）である、目録（もくろく）のない為（ため）に観覧者（くわんらんしや）は一々落款（らくくわん）に依（よつ）て書人（かきて）を知（し）ると云（い）ふ不便（ふべん）はあるが、細（こま）かに二三を評（ひやう）すれば岡田氏の裸体（らたい）の多（おほ）くはコランを真似（まね）て薄（うす）い調子（てうし）で書（か）き上（あ）げてある、立（た）つて居（ゐ）る薄（うす）い絵（ゑ）などは非常（ひじやう）に調子能（てうしよ）く出来（でき）て居（を）るし、同（おなじ）く立（た）つて居（を）る大（おほ）きな絵（ゑ）の草（くさ）などは得（え）も云（い）はれぬ妙味（めうみ）がある、それに景色画（けしきぐわ）の中（うち）では船（ふね）の絵（ゑ）が非常（ひじやう）に調子能（てうしよ）く出来（でき）て居（を）る、和田氏の絵（ゑ）は日本（にほん）に居（ゐ）る時（とき）から景色（けいしよく）は最（もつと）も得意（とくい）であつたが、向（むか）ふから送（おく）つて来（き）た景色画（けいしきぐわ）は一層目（そうめ）を新（あらた）にせしむる感（かん）がある、殊（こと）に日暮（ひぐれ）の景（けい）で堤（つゝみ）の処（ところ）に大（おほ）きな木（き）のある絵（ゑ）などは能（よ）く出来（でき）て居（を）る、次（つぎ）に藤島氏（ふじしまし）の絵（ゑ）である、是（こ）れはまだ出来上（できあが）つては居（ゐ）ないやうだが古代（こだい）の楽器（がくき）を持（もつ）て居（を）る女（をんな）などは実（じつ）に調子能（てうしよ）く出来（でき）て居（を）る、尚（な）ほ松（まつ）の木（き）を二枚続（まいつゞ）きに描（えが）いた絵（ゑ）などは日本絵（にほんゑ）の先生（せんせい）が見（み）たら驚嘆（きやうたん）する程（ほど）の旨（うま）い調子（てうし）で書上（かきあ）げて居（を）るが、藤島氏（ふじしまし）の技倆（ぎりやう）は新進（しんしん）の中（なか）で最（もつと）も賞賛（しやうさん）すべきものであると信（しん）ずる
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