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白馬会関係新聞記事 第6回白馬会展

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白馬会瞥見(其六)
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| 瞥見生 | 国民新聞 | 1901/10/31 | 3頁 | 展評 |
小代為重氏出品(こしろためしげししゆつぴん)の外国(ぐわいこく)の景色画数枚(けいしよくぐわすまい)の内(うち)で一番大(ばんおほ)きな『夕陽』の景色(けいしよく)は出品中(しゆつぴんちう)の出来上(できあが)りし者(もの)かと思(おも)はれるが色(いろ)が可(か)なり善(よ)いばかりであまり感服(かんぷく)しない、中(なか)でも最(もつと)も空(そら)と屋根(やね)の具合(ぐあひ)が固(かた)すぎて目(め)に障(さは)る様(やう)だ水(みづ)に映(うつ)つて居(ゐ)る明光(あかり)なども妙(めう)でないが小(ちひ)さな未成品(みせいひん)とも云(い)う可(べ)き画(ゑ)は何(いづ)れも面白(おもしろ)いばかりでなく趣味(しゆみ)が充分有(じうぶんあ)る様(やう)で別人(べつじん)の作(さく)と云(い)つても可(い)い様(やう)に思(おも)ふ◎黒田清輝氏(くろだきよてるし)の『裸美人』流石親玉(さすがおやだま)の作(さく)だけに旨(うま)いもんだ中(なか)にも血色(けつしよく)の美(うる)はしき処(ところ)や頭髪(とうはつ)の黄金色(わうきんしよく)に輝(かゞや)いて居(ゐ)る処其(ところそ)れから後(うしろ)の幕(まく)の色合(いろあひ)、模様(もやう)などの調度(てうど)が実(じつ)に心持(こゝろも)ちの善(よ)い程(ほど)に出来(でき)て居(ゐ)るラシイ事(こと)には主(おも)な処(ところ)が例(れい)の幕(まく)で見(み)ることが出来(でき)んのは実(じつ)に遺憾(ゐかん)だ◎和田英作氏(わだえいさくし)は仏国(ふつこく)からの出品(しゆつぴん)で大作(たいさく)はないが数(かず)は沢山有(たくさんあ)る『自画像』『リユクサンブウール公園』『ノウトルダムの夕景』『ノレンドルフの朝霧』などは上作(じやうさく)だ右(みぎ)の内(うち)で『自画像』は十七世紀時代(せいきじだい)の色(いろ)を模(も)して自分(じぶん)の肖像(せうざう)を画(えが)きいた者(もの)とか、なかなか洒落(しやれ)て居(ゐ)て面白(おもしろ)い其(そ)れから『リユクサンブウール公園』此(こ)れは夕方(ゆうがた)の画(ゑ)だが総(すべ)ての点(てん)に付(つ)きて和(やは)らかく且(か)つ色(いろ)も落付(おちつ)きて居(ゐ)て何(なん)とも云(い)はれない程(ほど)の上出来(じやうでき)だが同氏出品(どうししゆつぴん)の他(た)の者(もの)と比(くら)べて見(み)ると丸(まる)で師弟(してい)の作程違(さくほどちが)つて居(ゐ)る様(やう)に思(おも)はれる◎小林萬吾氏(こばやしまんごし)の出品(しゆつぴん)も却々数(なかなかかず)が沢山(たくさん)だ一番大(いちばんおほ)きいのは女学生(ぢよがくせい)が庭(には)の岩(いは)に倚(よ)り掛(かゝ)つて『読書して居る図』だが大(おほ)きいだけ欠点(けつてん)だらけだ、第(だい)一人物(じんぶつ)がフヤフヤの内(うち)に出来上(できあが)り、周囲(しうゐ)の景式(けいしき)が御粗末(おそまつ)で成(な)つて居(ゐ)ないのと紫袴(むらさきはかま)が読書(どくしよ)の台(だい)にして居(ゐ)る岩(いは)などは尤(もつと)も駄作(ださく)だ丁度芝居(ちやうどしばゐ)の道具立(だうぐだて)を見(み)る様(やう)に感(かん)ぜられるのと其(そ)の前(まへ)の萩(はぎ)などは実(じつ)に御話(おはな)しにならん其(そ)れから全体(ぜんたい)が『ブロマイ』写真(しやしん)に著色(ちやくしよく)した者(もの)の様(やう)で無趣味此(むしゆみこ)の上(うへ)なしだ昨年中出品(さくねんちうしゆつぴん)になつた者(もの)の方(はう)が数等上出来(すうとうじやうでき)の者(もの)が多(おほ)い様(やう)に見受(みう)けられた◎岡田(おかだ)三郎助氏(ろうすけし)の『黄昏』は一寸(ちよつ)とも軽々敷(かるがるし)き処(ところ)がなく色(いろ)も非常(ひじやう)に麗(うる)はしく画(ゑが)き方(かた)も深接(しんせつ)で夕方(ゆふがた)の淋(さび)しい様(さま)が充分現(じうぶんあら)はされて居(ゐ)るが慾(よく)を申(まを)せば空(そら)が少(すこ)し暗(くら)くはないかと思(おも)ふばかりで実(じつ)に感心(かんしん)の外(ほか)ない(瞥見生)

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