| ◎近年新派紫派南派種々（きんねんしんぱむらさきはなんぱしゆじゆ）の称（しよう）を呼（よ）ばせて洋画界（ようぐわくわい）を聳動（せうどう）し世間（せけん）を賑（にぎ）はしたる白馬会（はくばくわい）は本年（ほんねん）も昨（さく）廿五日（にち）より上野公園内（うへのこうゑんない）に展覧会（てんらんくわい）を開（ひら）きぬ二三の新聞（しんぶん）には昨年（さくねん）の例（れい）に思（おも）ひ合（あは）せてや日本絵画協会（にほんくわいぐわけうくわい）を共同（きようどう）しての如（ごと）く見（み）へしが其（そ）は誤聞（ごぶん）にして今年（こんねん）は彼（かれ）に関係（くわんけい）なく独立（どくりつ）して開（ひら）けるなりけり出品中（しゆつぴんちう）には未（いま）た画（えが）き終（をは）らざるもあるべく将（は）た額縁（がくぶち）の都合（つがふ）などにて数日遅（すうじつおく）るゝもあるよしなれば其出揃（そのでそろ）ふは此（こ）の両三日（れうさんにち）を掛（か）けてなるべし今総出品（いまそうしゆつぴん）の上（うへ）に就（つき）て消息（せうそく）を報（ほう）ずべし＠◎出品総数は二百三十余点に達（たつ）すべく其（その）作家は白馬会員（はくばくわいゐん）十六名余（めいよ）の十七名（めい）は客員（かくゐん）なり＠◎東京美術学校学生の出品即（すなは）ち昨年同校（さくねんどうかう）に洋画科（やうぐわくわ）を創設（さうせつ）せし以来始（いらいはじ）めて其成績（そのせいせき）の世に発表（はつぺう）せらるゝものゝ此会（このくわい）に見（み）らるゝこと是（こ）れ昨年（さくねん）の展覧会（てんらんくわい）を異（ことな）れる現象（げんしやう）の一なるべし其学生（そのがくせい）は客員（かくゐん）なる十七名（めい）と会員中（くわいゐんちう）の六名（めい）にして一年生（ねんせい）より四年（ねん）の卒業学期生（そつげふがくきせい）に至（いた）り佳作少（かさくすくな）からずと聞（き）く＠◎作品の多き画家を挙（あ）ぐれば和田英作氏（し）三十個（こ）、黒田清輝氏（し）二十個（こ）、北蓮蔵氏（し）十八個（こ）、久米桂一郎氏（し）十六個、小代為重氏同（しどう）、安藤仲太郎氏（し）十個、藤島武二氏（し）七枚等（まいとう）なるべきか＠◎出品（しゆつぴん）の多（おほ）きと大作の一二に止（とどま）らざる亦昨年（またさくねん）に異（ことな）れる現象（げんしやう）なるべし美術学校助教授（びじゆつがくかうじよけふじゆ）たる藤島氏は横凡（よこおよそ）一間半竪凡（けんはんたておよそ）一間（けん）の木炭画（もくたんぐわ）『夕涼（ゆふすゞみ）』なるを和田氏は其卒業製作舟待（そのそつげふせいさくふねまち）（横（よこ）七八尺竪（しやくたて）五尺許（しやくばかり））なるを出（いだ）し、後進画家中人物画（こうしんぐわかちうじんぶつぐわ）に得意（とくい）なる白瀧幾之助氏は『温習（さらゐ）』『化粧（けしやう）』の大作（たいさく）を安藤仲太郎氏は霊岸島（れいがんじま）の暁色（げうしよく）を横（よこ）五尺計（しやくばかり）の大物（おほもの）に画（ゑが）かれぬ黒田清輝氏は今夏（こんか）の函根土産（はこねみやげ）とも云（い）ふべき『避暑（ひしよ）』の画（ぐわ）は横（よこ）三尺（しやく）竪（たて）二尺（しやく）五寸許（すんばかり）なり、最近（さいきん）の作（さく）は横（よこ）三尺竪（しやくたて）五尺許萩（しやくばかりはぎ）の下露（したつゆ）とも云（い）ふべきものにて両個（ふたつ）とも景色（けいしよく）を添（そ）へて美人（びじん）を画（えが）けるなりけり＠◎此外（このほか）に三個（こ）の裸体画は黒田氏（し）の作（さく）に藉（よ）りて現（あら）はるべし是（こ）れぞ氏（し）が巴里の萬国博覧会（こくはくらんくわい）に出品（しゆつぴん）せんとて経営辛苦（けいえいしんく）の後此頃出来（のちこのころしゆつたい）したるものにて『智（ち）』『情（じやう）』『感（かん）』の三心象（しんしやう）を表（あら）はせる裸体画（らたいぐわ）なり地（ち）を金泥（きんでい）にして日本的意匠（にほんてきいしやう）を添（そ）へ各個横（かくこよこ）三尺竪（じやくたて）六尺位（しやくぐらゐ）なるを連（つら）ねて一額（がく）の中（なか）に収（おさ）むるもの、ペンキ塗道徳眼（ぬりだうとくがん）の人々（ひとびと）さては、其偉観（そのゐくわん）に驚（おどろ）けるもの、真美（しんび）の裸体画（らたいぐわ）を愛（あい）せるもの、其技術（そのぎじゆつ）を味（あじは）ふものなど出品（しゆつぴん）の暁（あかつき）は観客（くわんかく）の群集（ぐんしふ）せるさま今（いま）より想（おも）ふべきなり＠◎外（ほか）に今（いま）一とつ評判（ひやうばん）となるべきは伯耳義の帝室画家（ていしつぐわか）より寄（よ）せ来（き）たる三個（こ）の大油絵（おほあぶらゑ）なるべし外国画家（ぐわいこくぐわか）よりの出品（しゆつぴん）は実（じつ）に之（これ）を以（もつ）て嚆失（かうし）と為（な）す来月中旬頃到着出品（らいげつちうじゆんころたうちやくしゆつぴん）の筈（はず）なりとぞ |
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