| 画伯（ぐわはく）黒田清輝氏が先年裸体美人（せんねんらたいびじん）の図を京都博覧会に出品（しゆつぴん）せしより風俗上是非（ふうぞくじやうぜひ）の議論は紛々（ふんふん）として一時耳目を聳動（しようごう）したりしが時の内相（ないしやう）板垣伯は之を黙許（もくきよ）したるも坊間（ぼうかん）之をハンケチに複写（ふくしや）して発売（はつばい）するに至りたるものに向て伯は風紀（ふうき）に害ありと認めて発売を禁止（きんし）すると同時に之を掲載（けいさい）する新聞雑誌（しんぶんざつし）の出版物も禁止（きんし）したるにより世論は茲に再燃（さいねん）して囂々（がうがう）たる事ありしが裸体美人の図が果（はた）して風俗壊乱（ふうぞくくわいらん）の虞あるや否やは終（つひ）に一定する処なく殆（ほと）んど有耶無耶（うやむや）の間に没了（ぼつれう）し居たり然るに近頃又（ちかごろまた）白馬会に裸体美人の図を展覧（てんらん）に供（きよう）したるより新聞雑誌等の出版物（しゅつぱんぶつ）にも掲載（けいさい）して発売するものあるに至（いた）りたるより内務省は此等（これら）に対し何分の処分（しよぶん）を為さんと昨今協議中（さくこんけふぎちう）の由なるが裸体美人の図画（づぐわ）を出版したるものゝ発売を禁止すると同時（どうじ）に白馬会の陳列（ちんれつ）を禁ずべし否（しか）らざれば一方に之を禁止し他方（たほう）に之を許（ゆる）すは不都合（ふつがふ）なりと論ずるもあり或は美術（びじゆつ）をして陳列するは可なるも之を模写（もしや）して出版発売するは不可（ふか）などと云ふ者等ありて未だ孰（いづ）れとも決せず結局大臣（けつきよくだいじん）の方針（はうしん）を待て決定する事とありたる由 |
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