| 『黒田清輝氏』 氏が小督物語の如何に経営惨澹（けいえいさんたん）たるものあるかハ一とたび東台に上りて白馬会展覧会に遊（あそ）ばんほどの人（ひと）ハ孰（いづ）れも知る処なるが更に其後景高倉帝御陵の畔を写生（しやせい）する為（た）め過る廿二日凡そ三週間許り滞在（たいざい）の見込（みこみ）にてなじみ浅（あさ）からぬ京都へ赴きたり＠『安藤仲太郎氏』 西本願寺法主の肖像を描きて洛東法園の画家（ぐわか）と謡（うた）はれ白馬会出品中（はくばくわいしゆつぴんちう）東寺の塔に出色の誉（ほまれ）を博（はく）せし同士も再び彩毫（さいもう）を携（たづさ）へて京に入りぬ彼地の風光にして氏の筆に上りしもの既に五十余点と聞（き）く此度（このたび）の行に依りて更に加ふる所幾何ぞ高尾拇の尾さてハ嵐山（らんざん）の秋色（しうしよく）孰れ氏が画布上のものならざるべき＠『岡田三郎助氏』 氏も亦黒田氏と共に京都行の一人、山紫水明斯秀才の筆（ふで）を藉（か）りて一段（だん）の勝（しよう）を添ゆべく来ん年の展覧会（てんらんくわい）にハ安藤氏共々京都の為めに気焔（きえん）を吐（は）かんとの気込（きごみ）なりとハ勇（いさ）まし＠『佐野昭氏』 白馬会展覧会中一異観（ゐくわん）を呈（てい）するハ可美貴命彫像者たる佐野氏が熊本第六師団凱旋記念碑の為（た）めにせる製図（せいづ）なり氏が如何に緻密（ちみつ）の頭脳（づのう）を以て此設計（このせつけい）を立て如何に精巧（せいかう）の手腕（しゆわん）を揮（ふる）つて此作を試むべきやは製図の等閑（なをざし）ならぬにても凡そハ知らるべし大作（たいさく）を前に控（ひか）ゆるの氏は予（あらかじ）め大（おほい）に気を養ふの要やありけん黒田安藤の二氏と同行して京の旅立写真器械（たびだちしやしんきかい）を携（たづさ）へて今頃ハ紅葉狩（もみじがり）の最中とか＠『長沼守敬氏』 氏が毛利敬信公の馬上像は今や小石川砲兵工廠内の工場に其塑製を終りぬ写真の未だ充分（じゆうぶん）に開（ひら）けざりし一と昔し前に在りて没せし人のことなれバ其相貌（そのさうばう）の真似を求めんこと最（もつと）も難く井上伯及び公に近侍（きんじ）せし人々の批評（ひゝいう）を請（こ）ふて其都度（そのつど）之を改め最後（さいご）にキヨソ子氏が曾（かつ）て描（えが）きしものを参考として漸（やうや）く造（つくり）り上（あ）げたるよしにて其苦辛大（そのくしんおほい）に察すべきものあり全体（ぜんたい）に渉（わた）りて氏が技倆（ぎりやう）のほど発揮せられ優（ゆう）に近世有数（きんせいゝうすう）の作として称すべきを見る目今同所に於て石膏に採（と）り居（を）れるが其出来（そのしゆつたい）ハ来春二月頃なるべしといへば山口の亀山公園内に公の再生を観（み）るも遠（とほ）きにあらざるべし＠『伊太利美術工芸』 長沼氏は伊国に彫刻を学びしこととて由来同地（ゆらいどうち）に縁故深（えんこふか）き人なり頃日一二の新聞紙上氏が農商務省の為（た）めに伊国美術工芸（いこくびじゆつこうげい）視察として派出云々のことを記（しる）せり其事実（そのじゞつ）を聞（き）くに氏ハ曾て此辺の談を受けたることなきにあらねど未だ確定したる訳（わけ）にもあらず縦令（たとひ）然ることあらんも敢て農商務技師なんど云へる官命（くわんめい）を帯（お）びてにハあらで単（たん）に嘱托（しよくたく）に止（とど）まるべく其折（そのをり）は伊国威尼斯博覧会（羅馬にあらず）に関（くわん）する用務（ようむ）をも兼（か）ぬべしと云へり |
目次 |
戻る 
進む
