| 熊本城下洗馬川（くまもとじやうかせんばがは）の涯（ほとり）なる我（われ）より、東京麹（とうきやうかうじ）町なる桜東君（わうとうくん）の許（もと）へ、白馬会（はくばくわい）の開会（かいくわい）を祝（しゆく）したる辞（ことば）、頗（すこぶ）る好景気（かうけいき）なりとの返事往復（へんじわうふく）せられて、山河萬畳（さんがばんてう）四百里近（りちか）き彼方此方（かなたこなた）に、嬉（うれ）しき友垣（ともがき）の言葉結（ことばむす）ばれしは二十日許前（ばかりまへ）の事（こと）なり＠帰京匆々過（きゝやうそうそうすぐる）一日上野（じつうへの）に遊（あそ）びぬ、何（なに）よりも先（ま）づ眼（め）に入（い）るハ白馬（はくば）の二字（じ）なりけり、白地（しろぢ）に青（あを）く篆書（てんしよ）もて白馬会展覧会（はくばくわいてんらんくわい）とものされたる細長（ほそなが）の立札（たてふだ）、流石（さすが）に思（おも）ひ附（つ）かれしことかな＠会場（くわいぢやう）の装飾（そうしよく）いづれ用意（ようい）の深（ふか）からぬはなし、陳列方（ちんれつかた）のキチンと整（とゝの）へる見（み）るからに好（よ）き心地（こゝち）なり、僅々（きんきん）十一人（にん）にて、二百点近（てんちか）く油画（あぶらゑ）を出品（しゆつぴん）されたる、勉強（べんきやう）のほど感（かん）に余（あま）りぬ＠景色画（けいしよくぐわ）ハ京都大磯（きやうとおほいそ）などの風光最（ふうこうもつと）も多（おほ）きが如（ごと）し唯（た）だ客中我（かくちうわれ）に親（したし）みし須磨舞子（すままひこ）の絶景（ぜつけい）ハ何処（いづく）にも見出（みいだ）されず＠安藤仲太郎君（あんどうちうたろうくん）が久（ひさ）し振（ぶ）りにて出品（しゆつぴん）されたるさへあるに、其（そ）の京都（きやうと）を描（ゑが）きて廿余点（よてん）に及（およ）べる、寔（まこと）に近頃（ちかごろ）の観物（みもの）なり＠黒田君（くろだくん）は小督局物語（こがうのつぼねものがたり）に、藤島君（ふぢしまくん）ハ水彩画（すゐさいぐわ）に、小代君（しやうだいくん）ハ澎湖島（はうことう）に、久米君（くめくん）ハ仏国（ふつこく）のムーズとやらに和田（わだ）、白瀧（しらたき）、岡田（をかだ）、湯浅（ゆあさ）、中村（なかむら）、小林（こばやし）の諸君（しよくん）は京都大磯等（きやうとおほいそとう）の景色画（けいしよくぐわ）に、夫（そ）れ夫（ぞ）れ大気焔（だいきえん）を吐（は）かるゝところ、客中（かくちう）にて思（おも）ひしよりも一層盛（そうさか）んなる旗揚（はたあげ）なり尚（な）ほ今月（こんげつ）一杯（ぱい）は日延（ひの）べ開場（かいぢやう）するとのことにて、此日（このひ）より毎個番号（まいこばんがう）を打（う）ち出品目録（しゆつぴんもくろく）をも製（せい）して会場（くわいぢやう）に備（そな）へぬ＠白馬会（はくばくわい）ハ其名（そのな）に於（おい）て其実（そのじつ）に於（おい）て、既（すで）に世人（せじん）の認識（にんしき）に上（のぼ）りぬ、美術発達（びじゆつはつたつ）に関（くわん）して、其（そ）の同会（どうくわい）に待（ま）つところ、甚（はなは）だ大（だい）なるを知（し）るべし |
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