◎燈台図（久米桂（くめけい）一郎氏（ろうし）） 何所（いづこ）の岬（みさき）なるらん岡（をか）の小草青々（こぐさあをあを）として寐（ね）よげに見（み）えたるに茨（いばら）など生茂（おひしげ）りいさゝ小川其間（をがはそのあひだ）をさらさらと流（なが）れて野飼（のがひ）の牛（うし）の咽喉（のど）をや潤（うるほ）すらん岡（をか）の上（うへ）なる燈台（とうだい）はあまりに高（たか）からねども海上遥（かいじやうはる）かに照（て）らすに足（たら）なんあはれ島（しま）の少女（せうぢよ）と打群（うちむ）れて空晴（そらは）れ気澄（きす）みたる秋の一日（じつ）を大海原（おほうなばら）を見渡（みわた）して詩歌（しいか）など打吟（うちぎん）じて徘徊（たまとほ）らんにはいと興（きやう）あるべし、氏（し）の腕前（うでまい）さすがに欧洲修業（ようろつはしこみ）の事（こと）とて其筆（そのふで）の使（つか）ひ様重（やうおも）みあり邦人（ほうじん）の作（さく）とは思（おも）はれぬ計（ばか）りの傑作（けつさく）なり＠◎白瀧幾之助氏（しらたきいくのすけし）の出品中左（しゆつぴんちうさ）して注意（ちうい）をひくに足（た）る者（もの）なけれど渡場の図少女猫に戯むる図は氏（し）としては上出来（じやうでき）なるべし、但猫（たゞしねこ）に申分（まをしぶん）ありミーラの如（ごと）し＠◎湖水図（和田英作氏（わだえいさくし）） 秋（あき）も漸老（やゝふ）け草木（そうもく）も色変（いろか）へぬる程（ほど）に湖（こ）の水少（みづすこ）し涸（あ）せて游魚影（いうぎよかげ）を潜（ひそ）む堤（つつみ）の下（もと）に田舟（たぶね）あり傍（かたは）らに賤（しづ）の男（を）の柴（しば）を背負（せを）ひたるが何（なん）の思（おも）ふ所（ところ）があるらん心無（こゝろな）き身（み）にも秋（あき）の哀（あはれ）を身（み）にしめて打眺（うちなが）むらんとをかし、氏（し）は黒田門下（くろだもんか）の錚々（さうさう）たる者青年（ものせいねん）として評判（ひやうばん）宜（よろ）しければ筆（ふで）に愚（おろか）はなけれど野径の図などは余（あま）りに師（し）に真似（まね）たるの嫌（きら）ひあり、此他霧（このたきり）、雨両図（あめれうづ）とも傑作（けつさく）と云（い）ふべし
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