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◎アンリ・アルビニー-自然派の残党と云ふ感

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 アルビニーの絵は、随分ちよいちよい、いろんな絵を見たが、所謂穏健な絵で、無論時代も時代だから、突飛なところはない。多く樹や岩を描いて居る。フオンテヌブロウの森の附近を描いたのを多く見た。  アルビニーの画の一番佳い点は、デツサンがしつかりして居る、出鱈目なところがない。現代の作に慣れた眼で見ては、堅た過ぎる様に見えるかも知れぬ。
 私の最記臆に存じて居るのは、ルクサンブール美術館に在る秋の景色の画で、秋と云つても、丁度今頃(十一月中頃)の季候で、北の方の時候とすれば、まあ初冬の景色で、渓流があつて、それになだれ懸つた、幾許か葉の残つた樹があつて、上の半分は穏やかな夕方の空に突き出して居る。其樹の間から空が透けて見えて居る。余り大きな画ではない、六十号位ではなかつたかと思ふ。図柄から云つても、日本や支那や、東洋の画にありさうな、極めて整つた構図で、秋の季候と云ふ気合が能く現はれて居たと思ふ。
 画の系統は、自然派のミレ、コロー時代の残党と云ふ感じがして居た。私の記臆では、私の知つた時分に、初めから老人だつた。こんな古くから名をなして居た人だけれども、そうかと云つて老いぼれた画ではなかつた。力強い線を用ゐて、曖昧な、胡麻化しと云ふもののない画だと思はれる。
 作風や画題の選び方は、所謂山水だちな画が好きらしい、少くとも私の見たのでは、そんなのが多かつた、日本にでも居たら、尚ほ一層名画が出来たであらう。
 風景画家だから、一般の美術界に及ぼす勢力はそれ程ではなかつたが、一時はフランセーなどゝ一緒にアルビニーの名前は、盛んに呼ばれて居たものだつた。
 アルビニーの絵は処々方々の博物館にある。ルクサンブールの外、リル、オルレアン、グルノーブル等にもあるさうだ。
 一八六六年に初めてサロンで賞を得、続いて二三年賞を得た、一八七八年の万国博覧会に二等賞を取つた。其後一八九七年にサロンで名誉賞牌を得た。
 随分古い画家で、もう疾くに死んだかと思つて居た、一八一九年の生れだから、日本の齢で云ふと九十八歳だ、よく長寿を保つたもんだ。(談、校閲了)
  (「美術」1-3  大正6年1月)
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