| 跡見泰氏（あとみたいし）の作（さく）では三三０の「岬（みさき）」が最（もつと）も面白（おもしろ）い、日（ひ）の暖（あたゝ）かく射（い）つた犬吠（いぬぼえ）の岬（みさき）の感（かん）が心地好（こゝちよ）く出（で）てゐる「泊船（とまりふね）」は比較的大幅（ひかくてきたいふく）ではあるが構図（こうづ）が日本画式（にほんぐわしき）と云（い）ふ一種（しゆ）の趣味（しゆみ）があるので面白（おもしろ）く、一部分宛（ぶぶんづゝ）に就（つい）て見（み）ると水（みづ）の波紋（はもん）などに作（つく）つた所（ところ）が多（おほ）い、三三四の「入江（いりえ）」は小品中（せうひんちう）の傑（けつ）である。＠山本森之助氏（やまもともりのすけし）の作（さく）は「夕凪（ゆふなぎ）」と「漁火（ゐさりび）」と「雨（あめ）の山（やま）」の三枚（まい）だが三三五の「雨（あめ）の山（やま）」が最（もつと）も傑出（けつしゆつ）してゐる、高（たか）い山（やま）に懸（かゝ）つた雨雲（あめくも）の晴（は）れ間（ま）のちぎれちぎれになつた所（ところ）などは最（もつと）も巧（たくみ）に露（あらは）れてゐるが、近景（きんけい）の草木（くさき）が何（なん）と無（な）く物足（ものた）らぬ所（ところ）がある、「漁火（ゐさりび）」は空（そら）の蒼（あを）つぽい雲（くも）が厭（いや）な気（き）がするが一番巧（ばんうま）いのも矢張雲（やはりくも）である。＠藤島武（ふぢしまたけ）二氏（し）の滞欧紀念（たいおうきねん）スケツチの中（うち）にはいづれも最近仏国画界（さいきんふつこくぐわかい）の傾向（けいかう）を示（しめ）したもので面白（おもしろ）いものが多（おほ）いが三四四の湖水（こすゐ）の画（ゑ）は全体（ぜんたい）の色（いろ）の諧調（かいてう）が柔（やはら）かいので面白（おもしろ）く三四九の紅（あか）く輝（かゞや）く白帆（しらほ）、三五八、三六六の伊太利（いたり）の風景等華（ふうけいとうはな）やかな氏（し）の色彩（しきさい）に一種（しゆ）の渋味（しぶみ）が加（くは）はつて云（い）ふ可（べ）からざる味（あぢ）はひがある。＠黒田清輝氏（くろだきよてるし）の作（さく）では三六九の「花野（はなのの）」と題（だい）した女（をんな）三人（にん）の画（ゑ）が矢張如何（やはりどう）しても美（うつく）しい「夏（なつ）の月夜（つきよ）」の空（そら）の色（いろ）も好（よ）く、庭前（ていぜん）の雪（ゆき）の一筆（ふで）々々に物（もの）を顕（あらは）してゐる大膽（だいたん）なのも面白（おもしろ）い、殊（こと）に毎年見（まいねんみ）る図（づ）であるが春（はる）の草原（くさはら）の柔（やはら）かい画（ゑ）は氏独特（しどくとく）の画（ぐわ）でいつ見（み）ても何（なん）の音（おと）も無（な）い所（ところ）を描（ゑが）いてゐて、然（しか）も画（ゑ）に対（たい）すると一種（しゆ）なつかしい味（あぢ）がある、中村勝治郎氏（なかむらかつぢらうし）の作（さく）は小品（せうひん）の「残菊（ざんぎく）」が殊（こと）に好（よ）い様（やう）だ。＠第（だい）六室（しつ）の参考室（さんかうしつ）にはホンタヂキー氏（し）の女神（めがみ）、湯浅（ゆあさ）一郎氏模写（らうしもしや）のヴエラケス筆（ひつ）メニツポの像（ざう）、エソツポの像（ざう）、織女（おりめ）の図（づ）、官女（くわんぢよ）の図（づ）の大幅（たいふく）がある、我等（われら）は幾多（いくた）の日子（につし）を費（つひや）して直接見（ちよくせつみ）る事（こと）の出来（でき）ぬ此等（これら）の大幅（たいふく）を紹介（せうかい）された湯浅氏（ゆあさし）の努力（どりよく）を感謝（かんしや）するのである、他（た）にコウン氏筆（しひつ）の画稿（ぐわかう）、シヤバン筆壁画（ひつへきぐわ）の一部（ぶ）を藤島氏（ふぢしまし）が模写（もしや）した鶏（にはとり）の図（づ）、コルモンの画稿等後進（ぐわかうとうこうしん）を益（えき）する所（ところ）が多（おほ）いと思（おも）はれる。＠第（だい）七室加藤静児氏作（しつかとうせいじしさく）四０四博物館（はくぶつくわん）の午後（ごご）は元学習院跡（もとがくしふゐんあと）を見（み）た眼（め）には怪（あや）しい程異（ほどことな）つて見（み）えるが、さりとて彼（か）れが巧（うま）くて此（こ）れが拙（まづ）いのでも無（な）いので、之（こ）れが欠点（けつてん）はまだ描（ゑが）き足（た）らぬ所（ところ）にある、 |
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